Afterコロナのグループ経営
”想定外”という言葉をこれほど噛みしめた数カ月はなかったのではないでしょうか。新型コロナウイルスの感染拡大で世界中が混乱しており、多くの方が、Afterコロナの景色は、Beforeコロナと同じものではなくなるという感覚をもっています。そのような状況を踏まえ、今後起こると思われる、グループ経営を取り巻く3つの環境変化について考えてみたいと思います。
グローバル化の認識変化
ほんの数カ月前まで、”国境に壁を作る”のは特定の国の話でした。いま、あらゆる国が入国を規制し国境に壁を作っています。大きな流れでの経済のグローバル化の進展に疑問はありませんが、国家というものがいかに物理的で重要な単位として存在しているかを、いやがおうにも意識させられます。ヒトも企業も経済活動も、全ては国家という単位から自由ではいられず、どのように国家と向き合っていくのかを再考するきっかけになるでしょう。”世界はフラット化しない”のです。
企業経営においても、今後はより進出先の国々に対する意識の向け方を変えていく必要があります。これまで以上に各国の経済政策のきめ細かな理解、ヒトの行き来を含めた各国のオペレーションの再構築。また、それらを突発事故ではなく、ニューノーマルとして考えるための情報収集のあり方。いわば、いつでも”国境に壁はできる”前提で、どのようにグループ経営を組み立てていくのかを考えることが求められます。
企業におけるグループ経営の変化
前述の通り、グローバル化の認識変化に伴い、グループ経営の組み立てが変わります。真っ先に再検討を促されるのがグループ・ガバナンスのあり方でしょう。
以前、グローバル経営の優等生と評されている大企業の幹部の方とお話をした内容が印象深く記憶に残っています。そちらの企業ではグループ・ガバナンスのための枠組みがしっかりと整備され、本社と海外子会社のコミュニケーションプランがきちんと設計され、運用されています。一方で、その幹部の方のお話では、形式的なガバナンスルールが運用されているのも、現地に駐在している日本人が、ローカルの経営陣やスタッフが対応しない様々な”こぼれ球”を拾い、本社との間の潤滑油として機能しているが故であり、表からは見えないが、その裏方では駐在員の涙ぐましい努力があってこそとのことでした。
いま、新型コロナウイルスの感染拡大における、突然の”国境の壁”の出現で、駐在員の方の行き来に大きな制限が出ています。駐在員の方の生活と安全も考えると、駐在員ありきのガバナンスの見直し、言い換えると”駐在員ガバナンス”からの脱却を進めざるを得ないでしょう。グローバル化の認識変化によって、グループ・ガバナンスについては、これまで以上にリスク、非定型、アドホックな情報収集の重要性が高まります。定型、財務中心から非財務情報中心の情報収集の流れが加速するでしょう。言い換えると、連結会計中心からグループ経営を中心とした情報収集、コミュニケーションインフラへの再構築が求められます。駐在員ガバナンスから、データとインフラに基づくデジタル・グループ・ガバナンスへの進化です。
マクロ経済政策の変化
最後になりますが、マクロ経済政策についての変化について考えてみたいと思います。
リーマンショック以降、金融政策だけではなく、財政政策の重要性が語られるようになりましたが、現在、このコロナ禍を乗り切るために、各国ともに歴史的な財政出動を進めています。金融危機とは異なり、ウイルスによる危機のため、各国の産業構造に関わらず等しく経済的影響が発生するため、このような世界的な財政出動につながっています。一義的には将来の財政破綻のリスクより、まずは目の前の危機を乗り切るためのやむをえない対策として理解されていますが、この財政出動の結果起こるインフレがどの程度になるのかは注視が必要です。今は「トンデモ理論」として見られているMMT(現代貨幣理論)が、コロナ禍をきっかけとして、結果としての理論検証がなされることになるかもしれません。いずれにせよ、世界的な財政出動による将来の金融、財政環境の不安定さは、企業におけるファイナンスの舵取りを難しくするでしょう。資金調達環境が大きく変わることにより、日本においては進みづらかった事業再編が加速する可能性があります。
最後に
以上、3つの環境変化について考察をいたしました。将来の金融、財政環境がどのようになろうとも、企業価値の本質は変わりません。顧客のニーズに応える商品開発をし、受注をし、キャッシュを生む。その価値の総和が企業価値です。その原点を忘れずに経営をすることで、地に足の着いた環境変化との付き合い方ができます。そして、企業価値を高めるために、グループシナジーを追求できる戦略に磨きをかけ、将来にわたる成長のストーリーを財務情報、非財務情報を統合し、ステークホルダーに説明をする。そのためにも、全ての行動が拠って立つべき経営理念を軸にグループを束ねていく力が、これまで以上に求められるのだと思います。
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執筆者
寺島 鉄兵
執筆日:2020/4/22
※本記事は当社商号が「株式会社ディーバ」当時に作成されたものです。