新生・芝浦機械の経営改革プラン遂行への取り組み ~経営情報の可視化で実現したコミュニケーション改革~
はじめに
2020年にアバントにて開催したオンラインセミナー「芝浦機械のガバナンス改革の挑戦と日本企業への示唆」にて、芝浦機械株式会社・代表取締役である坂元繁友氏に登壇いただいてからから2年、今回は新生・芝浦機械が取り組む「経営改革プラン」を軸に、当社取締役・寺島をインタビュアーに据え、坂元社長へのインタビューを企画しました。
2020年のオンラインセミナーでは、坂元社長に、内部の経営改革にまで踏み込んだ芝浦機械におけるガバナンス構造の変遷と取り組みをご紹介いただきました。それからの2年間、導入していただいた当社の連結経営ダッシュボートの活用にはじまり、外部ステークホルダーとのコミュニケーションの質の変化、そして経営改革プランの実行に向けての取り組みについてお伺いします。
統一されたデータによって見えるようになった“本当の収益性”
寺島
2020年に当社主催のセミナーにて講演をしていただき、坂元社長のお話に対して多くの反響を頂きました。非常に印象に残ったのが、「投資家に対する説明責任を果たすためにも、数字によるコミュニケーションが重要だ」と仰っていたことです。弊社も微力ながらご支援をさせていただいてきてはおりますが、この2年間の「経営改革」を、坂元社長がどのように進められていたのかをお伺いしたいと思います。
坂元社長
かつて、我々が東芝機械(芝浦機械株式会社の旧社名)として東芝グループのなかにいた時は、グループ内の運営だったので、成果は投資家ではなくグループ内部に向けて出しておりました。しかし芝浦機械株式会社として社名が変わり、グループの外に出ると、投資家に対して利益率や収益性について説明をする機会があります。当然のことですがアバウトに答えるのではなく数字で答えるというのは大事なことです。ただ、全ての数字をありのままに出すのではなく、自分たちのビジネス成果を理解していただきやすい形にするために、数字をよく吟味しました。
その上でAVANT SMDを導入した結果、受注・生産売上・収益性などの数字がとてもタイムリーに上がってくるようになり、数字自体に対する信頼性もあがりました。
寺島
システム化することのメリットとして、数字作成の理屈、生成の過程がはっきりすることによって、よし悪しの判断基準の軸ができたということがありますか。
坂元社長
グローバル展開をしていると、地域によって特性が有ります。その特性が加味された数字はトレンドとして見るにはいいのだけれど、施策を打って全社レベルで何かしようという時に、各拠点に要望を伝えると、「それはわかるが、うちはこうやっているから」ということで、そこで話が止まってしまうということがありました。現在は上がってくる数字が共通基盤から出力した同じデータ源泉なので、「ここがおかしいから、こうやってほしい」というと、全社レベルでのアクションにつながりやすくなった。全社の数字が可視化されることで打ち手が一本化されたというのは実感としてありますね。
寺島
2020年に弊社とのプロジェクトが始まるに際して、御社には「これを実現したい」という要望がいくつかありました。
その一つとして、顧客別に本当の収益性をしっかり可視化する。それもグローバルで見ていかないと本当の収益性がわからないところが、大きなテーマとしてあったかと思います。
坂元社長
データのインプットがある程度共通化されたことで、地域性などのトレンドがすごく可視化されましたね。以前もグラフとしてはありましたが、欲しい時に欲しい数字が出てこなかった。期毎では大差ないが月毎で比較するとだいぶ違いが見えます。弊社の課題が見事に可視化されました。収益性の確認も、以前は都度調べさせていたものが、短時間で出てくるので非常に良い成果だと思っています。
寺島
可視化されたことによって、実現できなかった打ち手が実現できるということになった、ということでしょうか。
坂元社長
そうですね。もちろん数字を見て悪いところ直していくというのはあります。それだけではなくて、肌感覚で得られた違和感を修正しようとする時に、以前はその根拠が無かったのです。システム化されたことで、受注とその生産、売上、収益のアウトプットを短時間で画面の中で確認できるから、気が付くところがあるのです。どこが根幹となるポイントなのか、その検証がやりやすくなりました。
我々は今、受注環境が非常に良いのですが、問題なのは、売上が上がっていかないのです。注文は受けたが出荷できていない受注残というものが積みあがっていきます。今までのやり方だったら、受注残があるということは、我々にとって良いことなのだと解釈していた。しかし受注と売上の推移をトレンドとして並べて画面で見ていくと、「いつからどうなっていくのか」が分かってくるようになりました。このままいくとキャンセル案件が増えてくるということが分かるのです。機械的にはっきりと数字を出す…本来の目的通りだと思います。
寺島
経営の重要な数値というものが頭の中だけではなく、連環した形で共有され可視化されることで、何が経営のツボなのかが理解できます。
坂元社長
数値で出てくるから説得力があります。グローバルの各拠点に対しても、拠点ごとの従来のやり方はあると思いますが、数字を見せて、説得力を持ってコミュニケーションをとることができるようになりました。
寺島
もともと持っていた肌感覚が数字で裏付けられ、判断のサイクルや精度が上がったということでしょうか。
坂元社長
そうです。システムで集積されたものを見て判断、もしくは肌感覚と重ねて検証して「ああ、やっぱりそうだったよね」という話になっています。
システムにデータはすでに入っているので、これからは、データの仕分けをさらに厳密にして、例えばサービスごとの損益から強みと弱みを分析できるような数値を出したり、受注時点での利益を分析するために機種ごとの受注利益を正確に把握できるようになるなど、自分たちに必要な数値を拾い上げていくという、もう一段手を加えたステージに行かないといけないなと思っています。
数字の可視化で起こった社内の”意識改革”
寺島
経営者としての坂元社長の目線でお話をお伺いしてきましたが、今回の取り組みは現場のため、執行のためという側面もありました。メンバーの執行を司っている方の意識や行動に、坂元社長から見てどのような変化がありましたか?
坂元社長
本来は稼がなくてはならない人が、これまでは資料作成ばかりをやっていましたが、それが格段に減りました。これまで使われていた時間が、改善業務などに使えるようになったことは本当に大きなことです。
グローバルな販売計画と生産計画をカンパニーで一元管理するように言っていますが、システムが有るから進みやすくなっています。
今までは、グローバル展開を強化していることもあり、例えば中国でのビジネスにおいては、中国に工場を置き、販売現地法人をつくり、販売計画・生産計画を立てて製造販売をしていく。そこで出た損益を日本側へ連結として吸収するというものでした。
これをやっていくと、確かにグローバル展開はできているが、全体のアンバランスが生まれる。
例えばアメリカでは売る在庫が無いが、タイでは在庫が増えている。ただし、仕様の不一致があり簡単には転用できない。こうしたアンバランスが起きていき、全体で見ると資産効率が悪くなりますね。アンバランスが生まれないよう、それを一元管理してもらいたいとグローバル拠点には期待していたこともあり、今、それが動き始めたところです。
まさに数字が可視化されたおかげで、各拠点のカンパニー長の意識変化も大きく、「こんな非効率なことがあったと初めてわかりました」という声が聞こえてくるようになりました。判断基準としての指標がないと、グローバルでの一元管理の実現は非常に難しいと思います。同じルール、同じ指標を共有できるから、カンパニー長たちも一元管理できるようになってきたということですね。
数字で語る“投資家との対話”
寺島
2020年当時には経営改革をするきっかけとなった資本構成の変化があり、外部のステークホルダーに対する説明を意識していかなければならないというお話がありました。今回、経営管理の基盤の整備というものを通して、外部ステークホルダーとのコミュニケーションがどのように変化されたのでしょうか。
坂元社長
やはり数字で語りやすくなりました。今の主力製品の受注が良くて、月産何台と、ある程度トレンドで見て総合的に回答していかないと正しく伝わらないのですが、やっていくうえで、「その体制がとれているのか?」「収益性はどうですか」という投資家からの声に対して、点の質問に答えるだけではなく、生産の流れのどこで利益が出てくるのかなど、生産計画の検証と説明がしやすくなりました。数字で見えるから、投資家にも安心して話ができます。想定より上の利益が出るのでは、といった声にも、可視化された数字をもとに実際の話もできるようになります。やはり数字で語れるというのは、当然のことであり、感覚で話すわけにはいきません。クリアになるからお約束もしやすくなります。
アバントへの期待
寺島
芝浦機械の経営改革はこれからも続いていくものですが、その中で弊社アバントにご期待いただいていることはありますか。
坂元社長
今は基本的な部分を導入いただいていて、基本的な数字を出せるようになった状態だと思います。
先程もお話しましたが、我々はステップアップしていかないといけないと考えている中で、より厳密なデータの仕分けを行い、自分たちに必要な情報を出していく必要があります。
会社方針や施策に合わせてアウトプット/分析できるように数値を洗練させていきたいので、そこをご協力いただきたいと思っています。
芝浦機械株式会社について
当社は、1938年の創業以来、お客様の求める機械装置(生産手段)を創造、製造し続けてまいりました。
現在では、射出成形機、ダイカストマシン、押出成形機、工作機械、産業用ロボットなどの製造・販売を手掛けております。中でもリチウムイオン電池の正極と負極を分けるバッテリーセパレータフィルムの製造装置(押出成形機の一種)の受注は非常な活況を呈しており、また、ダイカストマシンやスマートフォンに採用される高精細カメラレンズ金型加工等に用いられる超精密加工機などでは国内外でトップシェアを誇っています。
2020年2月に策定した中期経営計画「経営改革プラン」に基づき、高収益企業への変革に向けて、組織改革、成長分野に対応した投資の推進、資本効率(ROE)の向上を目ざした財務戦略の実行に取り組んでおります。さらに、同年3月に策定した「新生『芝浦機械』長期ビジョン2030」に基づき、グローバル製造業が直面する気候変動と資源不足、人口構造の変化、テクノロジーの進歩等のメガトレンドに対し卓越した技術革新で応え、社会的課題の解決と企業価値向上の両立を目指してまいります。