連結会社別/事業別 ROIC指標の実務
本コラムでは、グループ経営管理において頻度の高い用語やトピックについて解説します。
近年、ROIC経営を導入する企業が増加しています。
グローバルなビジネス展開に合わせ、投資家は自らの投資における投資効率が高いのかを公開企業(上場企業)に要求する声が高まるようになりました。
とりわけグローバルに事業展開する企業は、事業ポートフォリオマネジメントの重要性が増しており、投資家が正しく事業を評価するためには、ROE指標(株主資本利益率:Return On Equity)だけでなくROIC指標を採用する必要があります。
1)ROICとは何か?
ROIC(投下資本利益率: Return On Invested Capital)とは、経営管理の測定指標で、利益と資産の効率性を評価する指標です。
まず、ROICは、以下の計算式で定義します。
《計算式》 ROIC=(営業利益×(1-実効税率))÷(株主資本+有利子負債)
ROICを算出することで、『投下資本(株式投資という直接投資と借入金などの間接投資の総和)からどれだけ利益が生み出されているか』を表すことができます。
2)事業別ROICとは何か?
ROICは、PLの取引情報とB/Sの残高情報の2種類の情報を利用することで計算できます。投資家視点で見ると、連結ベースのROICを計算して表現されても、その企業集団が『どのようなビジネス』で資本効率が高い(=効果的な利益創出が出来ている)のかが分かりません。
製造業を例にすると、原材料から複数の商材(消費者向けの製品と、中間素材としての製品)ができるようなビジネスを展開している場合、全体の事業の平均では、それぞれのビジネスが効果的にパフォーマンスできているか正しく判断できません。
その為、”連結会社を束ねた会社合計の合算ROIC”ではなく、”連結会社の事業セグメント別の集計ROIC”を見ることによって、『投資している資本に対する事業運営の巧拙』を把握できるようになります。
<事業別ROICが必要になる場合とそうで無い企業の事例>
・必要な場合
┗製造業で組立商材とアフターパーツ系のビジネスがあり、それぞれで利用する棚卸資産や固定資産が事業毎に異なる企業
・不要な場合
┗特定の商材に固定される事業で、共有資産や共通の設備で複数のビジネスが展開できる企業
事業を複数営んでいる、もしくは中核事業が絞り込まれるような経営スタイルかで事業別まで深堀する必要があるか変わってきます。
3)事業別ROICの実務課題
【課題】投下資本の測定が事業別に分解できない
先ほどの投下資本の計算式をそのまま適用すると、投下資本の事業別分解は、何らかの比率で分解しないと投下資本が算定できなくなります。また、負債資本については、『どの事業に投資しているのか』という測定が非常に難しく、取引に基づく事業の色付けが難しいものになります。
ROIC投下資本(分母)の計算式を一部改訂します
・全社ROIC=(営業利益×(1-実効税率))÷(株主資本+有利子負債)
・事業別ROIC=(営業利益×(1-実効税率))÷(現預金+運転資本+固定資産)
4)事業別ROIC シミュレーションパネルイメージ
3)の形で計算定義を見直し、かつ、事業別情報を取得できるようになると、以下のようなイメージでROIC算定を行うことが可能になります。
次回は、上記事業別ROICを算出できる様になった情報に基づいた、KPI/KGIの設定についての実務例をご紹介します。
執筆者
株式会社アバント 事業統括本部 事業企画室新規事業推進グループ グループ長 マネージャー 鈴木 健一
<経歴>
監査法人のシステム監査部からキャリアをスタートし、上場会社の情報システム部門(連結決算、連結経営管理)のIT部門でDIvaSystem LCAのユーザとして10年以上の運用も経験。総合ファーム(KPMG)を経由し、AVANTへ参画。
AVANT Chart プロダクト責任者として製品ローンチ後の導入含め多数のプロジェクトに参画。経理管理高度化プロジェクト(グループ管理会計の業務構想化~AVANT Cruise&Chartの導入)のプロジェクトを主導。グループ経営管理におけるプロセス高度化(財務連結/管理連結の経営データモデルを踏まえた経営BIの導入)のエリアを主務として担当。
執筆日:2023/10/1