投稿日:2023.12.06
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事業ポートフォリオ管理

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ノウハウ

事業ポートフォリオとは?メリットや作成方法、活用のポイントを解説

複数の事業を運営している企業にとって、各事業の成長性や収益性を見極めることは重要です。なぜなら、全ての事業が成長し続けるとは限らないからです。経営者は「集中的に経営資源を投入すべき事業はどれか」「撤退すべき事業はあるか」といった経営判断を的確に行わなければなりません。そこで役立つのが、各事業の成長性や収益性を一覧化した「事業ポートフォリオ」です。

この記事では、事業ポートフォリオの概要や作成するメリットの他、作り方と活用のポイントについて解説します。「事業ポートフォリオは、どのように作成すればいいのか?」「どうやって活用するのか?」と悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。

1)事業ポートフォリオとは、企業が運営している事業を一覧化したもの

事業ポートフォリオとは、企業が運営している事業を一覧化したものです。
事業ポートフォリオを作成すると、各事業の収益性はもちろん、成長性や安全性についても可視化して比較できるようになります。つまり、事業ポートフォリオを作成することには、今後の事業の展開や予測が立てやすくなるという効果があるのです。
また、「どの事業へ注力すれば、限られた経営資源を有効活用できるか」を判断しやすくなります。

2)事業ポートフォリオを作成する4つのメリット

事業ポートフォリオを作成することでどのようなメリットがあるのでしょうか。主なメリットを4つ見ていきましょう。

■スピーディーな経営判断ができる

事業ポートフォリオを作成することで、スピーディーな経営判断ができるようになります。なぜなら、自社の事業を俯瞰的に捉えることができ、時代のニーズにマッチしているか判断しやすくなるからです。

近年は技術的な進歩やグローバル化など、企業を取り巻く状況が大きく変化しています。特にコロナ禍以降は、消費者のライフスタイルだけでなく行動様式も変化し、ビジネスシーンにも大きな影響を及ぼしました。事業ポートフォリオを作成しておけば、各事業の成長性や収益性、安定性を把握でき、状況の変化に応じたスピーディーな対応や的確な経営判断につながります。

■ビジネスチャンスを見極められる

ビジネスチャンスを見極められることも、事業ポートフォリオのメリットの一つです。社会情勢の変化が激しい時代でも生き残っていくためには、ビジネスチャンスを逃さないよう注意しなければなりません。事業ポートフォリオを作成しておけば、自社が手掛けている各事業の状況を把握できるため、どの事業にビジネスチャンスが潜んでいるのかが分かりやすくなります。迅速な経営判断により、ビジネスチャンスを逃すリスクを減らすことができるのです。

■金融危機へのリスクヘッジができる

事業ポートフォリオの作成は、金融危機へのリスクヘッジにつながります。昨今は社会情勢の変化が激しいため、急激な金融危機が発生する可能性もゼロとはいえません。そのため、企業は財務体質の強化を常に意識しておく必要があります。

事業ポートフォリオを作成すれば、各事業の強みや弱みを知ることができます。「この事業からは撤退しよう」「この事業は譲渡しよう」といった経営判断をスピーディーに下すことができれば、財務体質の強化につながります。それにより、将来起こりうる金融危機へのリスクヘッジが可能となるのです。

■M&Aに活用できる

M&A(企業の合併・買収)に活用できる点も、事業ポートフォリオのメリットとして挙げられます。M&Aを実施する際は、業界や市場の動向分析だけでなく、自社の事業を分析して詳細に把握しておくことが必要です。事業ポートフォリオを作成すれば、自社の強みはもちろん、抱えている課題も明確にできるため、M&Aを実施する際の判断材料として活用できます。

3)事業ポートフォリオの作り方

では、実際に事業ポートフォリオを作るには、どのように進めていけばいいのでしょか。作成手順を見ていきましょう。

3‐1. 現状を把握する

まず、自社の現状を把握することから始めます。そこで活用される方法が、PPM(Product Portfolio Management:プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)分析です。これは、コンサルティング企業であるボストン・コンサルティング・グループによって、1970年代に提唱されました。

PPM分析は、自社の事業を分析して資源分配の最適化を行うための手法です。PPM分析では、縦軸を「市場成長率」、横軸を「相対的市場シェア(市場占有率)」に設定します。その上で、「花形」「問題児」「金のなる木」「負け犬」の4つに分類し、自社の事業を当てはめていきます。それぞれの意味を解説しましょう。

・花形
花形は、市場の成長性、市場のシェアがともに高い事業であり、売上は大きくなります。ただし、花形は競合する企業が多くなる傾向があるため、ライバル企業に負けないような継続的な投資が求められます。

・問題児
問題児は、市場成長率は高いものの、市場のシェアが低い事業です。そのため、問題児に当てはまる事業は、市場のシェアを高めて花形に近づけることが目標となります。ただし、問題児の事業は市場競争にさらされやすいため、将来的な成長を見越した上で投資してシェアを高め、競争を勝ち抜く必要があります。
もし、「この事業は期待するほど利益を生み出さない」と判断した場合は、早めに撤退することも大切です。

・金のなる木
金のなる木は、市場の成長性は低いものの、市場におけるシェアが高い事業です。安定的に利益を生み出しやすいため、コストを削減して利益率の向上を目指します。また、金のなる木で得た利益を花形や問題児に投入すれば、他の事業にも取り組みやすくなります。

・負け犬
負け犬は、市場の成長性も市場のシェアも低い事業です。サイクルでいえば「成熟期」から「衰退期」にある商品・サービスが対象で、利益も少なくなります。販売促進の施策や投資の追加によって、復活する可能性もゼロとはいえません。
ただ、市場が縮小傾向であるなら、事業として撤退することを検討すべきです。その際、負け犬の事業に割いていたリソースは、他の事業に割り振りましょう。

3‐2. 注力事業を決定する

次に、メインとなる自社の注力事業を決定します。ここで活用する手法が、CFT分析です。
CFT分析とは、「Customer(顧客)」「Function(機能)」「Technology(技術)」の3軸によって分析するフレームワークで、「CTMフレームワーク」とも呼ばれています。それぞれの意味は下記の通りです。

CFT分析の3軸

・顧客軸
顧客軸は、年齢、性別、居住地、趣味・嗜好などを絞り込み、自社にふさわしいターゲットを明確にします。自社の商品・サービスが、どのような顧客層に対して価値を発揮できるのか、客観的な市場分析によって把握します。

・機能軸
機能軸では、自社の商品・サービスがどのような価値を与えられるのかを見定めます。別のいい方をすれば、「自社の商品・サービスは、顧客のどのような課題を解決できるか」を明確にする軸です。機能軸は、競合他社と差別化する要素を含むため、注力事業の決定において最も重要といえます。

・技術軸
技術軸では、「競合他社にはない、自社だけの技術は何か」を特定します。技術軸は、自社のイノベーション創出や新規事業の開拓など、将来の主軸となる事業の立ち上げにもつながります。

3‐3. 自社の強みを明確にする

他社がまねできない、自社の核となる強みを導き出します。
自社の強みは「コア・コンピタンス」とも呼ばれており、「模倣可能性」「移動可能性」「代替可能性」「希少性」「耐久性」という5つの視点から判断します。

コア・コンピタンスの5つの視点

・模倣可能性
模倣可能性は、競合他社がまねできる可能性はどれくらいあるかという視点です。自社オリジナルで、かつ競合他社が簡単にはまねできないような技術を強みにすることが理想的です。

・移動可能性
移動可能性は、他の分野でも応用できる可能性はあるかという視点です。汎用性の高い技術を持っていれば、他の事業にも応用できる可能性が高いでしょう。

・代替可能性
代替可能性は、他の商品・サービスでも代替可能かどうかという視点です。他の商品・サービスでも課題を解決できるような技術だとすると、価値を生み出せません。

・希少性
希少性は、「これは珍しいな」と顧客が感じる可能性はどれくらいあるかという視点です。自社の強みにすべきは、「これは希少価値がある商品・サービスだ」と顧客が思うような斬新な技術です。

・耐久性
耐久性は、長期間にわたって顧客から必要とされる可能性はあるかという視点です。消費者から長く愛されるような技術を強みに設定しないと、いくら良い商品・サービスであっても一時的なヒットで終わってしまうかもしれません。

3‐4. ビジネスモデルを決定する

自社の強みを明確にしたら、ビジネスモデルを決定します。その際、自社の企業理念に紐づいたビジネスモデルかどうかを重視しなければなりません。なぜなら、事業ポートフォリオを作成する目的の一つが「企業の目標や理想に近づけること」だからです。

目先の利益や事業規模の拡大ばかりに注力していると、場合によっては企業イメージの悪化や顧客離れにつながりかねません。ビジネスモデルおよび事業ポートフォリオが企業理念に紐づいた内容になっているかどうか、あらためて確認しておきましょう。

4)事業ポートフォリオを活用するには最適化が欠かせない

事業ポートフォリオを作成して活用するためには、常に最適化されていることが必要不可欠です。事業ポートフォリオの作成をゴールと捉えないようにしましょう。事業ポートフォリオの最適化とは、「どの事業に投資するか」「どの事業は撤退するか」を決めていく作業のことで、一言でいえば、「選択と集中」です。

事業ポートフォリオの最適化には、事業単体はもちろん、各事業の組み合わせによって発生する相乗効果やリスク分散も考慮しなければなりません。事業を組み合わせることで業績アップにつながるのか、コストを減らせるのかを見極めることが重要です。各事業に対して適切に経営資源を分配することが、最適化につながります。
以下の3つのポイントを押さえて最適化を行いましょう。

■投資の優先順位を決定する

事業ポートフォリオの最適化において重要なポイントの一つが、「投資の優先順位を決定すること」です。優先的に投資すべき事業はどれか、撤退や再編すべき事業はあるかを見極めましょう。自社商品・サービスのポジションによっては、投資を追加する必要があります。一方で、無駄なコストは減らしていくべきです。
場合によっては、大幅な事業の転換や撤退も検討しなければなりません。日本では、事業の撤退に対してネガティブな印象を持つ人が多いのではないでしょうか。しかし、事業の撤退は失敗ではなく、新たな投資を行うための措置でもあります。撤退した分の経営資源を新規事業や既存事業へ割り振ることで、業績アップにつながる可能性もあるはずです。

■ガバナンスを強化する

ガバナンスを強化し、適切な意思決定ができる体制を作ることも、事業ポートフォリオの最適化には必要な施策です。なぜなら、ガバナンスが機能していないと、従業員が経営層の意思に従わず、自らの判断によって業務の方向性を決めてしまう可能性があるからです。
事業ポートフォリオを最適化するには、決定権のある人が独善的な考えで間違った判断をしないよう、ガバナンスを強化することが重要です。

■定期的に事業ポートフォリオの分析・評価をする

定期的に事業ポートフォリオの分析・評価をすることが、最適化につながります。競合他社を含め、マーケットの状況は常に変化します。一度、事業ポートフォリオを分析・評価したとしても、時間が経つと役に立たなくなるかもしれません。特に、社外の環境変化は把握しづらいため、注意が必要です。
事業ポートフォリオを分析、評価する際の判断基準としては、「成長性があるか」「収益性があるか」「リスクはどれくらいあるか」「シナジーが見込めるか」「リスク分散できるか」などが挙げられます。

5)事業ポートフォリオを作成・最適化して経営資源を有効活用しよう

事業ポートフォリオを作成すれば、自社の事業の状況を可視化できます。それにより、スピーディーな経営判断や金融危機へのリスクヘッジ、M&Aへの活用といったメリットが得られるのです。
ただし、事業ポートフォリオを作成して終わりでは意味がありません。各事業に対して適切に経営資源を分配し、最適化することが重要です。経営資源を有効に活用するためにも、事業ポートフォリオを作成して最適化しましょう。

アバントでは、事業ポートフォリオ管理の導入や支援を行っています。複数の事業を持つ企業においては、事業ごとの資産や生産性などのデータ整備が困難であったり、とりまとめたデータを十分に分析できていなかったりなど課題を抱えるケースも多いでしょう。事業の選択と集中を適切に行い、企業が成長をするためにも、事業ポートフォリオ管理の導入、最適化をご検討ください。

・アバントの事業ポートフォリオ管理については下記をご参照ください。
事業ポートフォリオ管理

・事業ポートフォリオの作成や経営管理システムの導入をご検討の方は、お気軽にお問い合わせください。
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