注目が高まるS&OPとは?SCMとの違いや導入のポイントを解説
S&OPとは、主に販売・生産・調達までの経営の意思決定プロセスを早め、サプライチェーンを最適化する手法です。
この記事では、S&OPの概念と導入のメリットを解説します。さらに、実際にS&OPを導入する際のポイントと、注意点についても詳しく見ていきましょう。
1)S&OPとはサプライチェーン全体を最適化する手法
S&OPとはSales and Operations Planningの略称で、主に販売・生産・調達までの経営の意思決定プロセスを早め、サプライチェーン全体を最適化する手法のことです。
従来、企業が利益を最大化するためには、在庫の適正化や納期の遵守など「モノ」の管理に関する部分に重点を置いた施策が行われてきました。これに対してS&OPでは、利益(金額)をベースにサプライチェーン全体の最適化を行うことを目的としています。具体的には、市場の需要と供給のバランスを保つためにデータの収集・予測・調整を行うことで、販売、生産、調達、在庫管理などの各部門の計画を統合し、ビジネスの戦略目標を達成することを目指すものです。
S&OPを導入することで、企業は市場の変化に対応し、競争力を維持することができ、企業全体のコミュニケーションを改善して部門間の情報共有を促進することが可能になります。企業は一貫した目標に向かって進むことができるため、全体としてのパフォーマンスが向上する効果も期待できるでしょう。
S&OPは、現代のビジネス環境において、企業が成功を収めるための重要なプロセスであるといえます。
1.S&OPの普及状況
S&OPの取り組みが欧米で本格化したといわれるのは、2000年頃からです。S&OPは1980年代にアメリカの企業で提唱された概念でしたが、現在の概念とは意味が異なるものでした。その後、韓国のサムスンがS&OPに早期に取り組んだといわれており、現在のS&OPは、1990年代のPCメーカーが設計したモデルを参考にSCM(Supply Chain Management)のノウハウを結合し、独自に発展させたものとされています。
日本では、S&OPの概念はこれまであまり知られていませんでした。しかし、欧米での普及状況などから、近年では認知度が急速に高まっており、まだ少数ではありますが、企業で導入され重要な施策として取り組まれるようになっています。
2.S&OPの注目が高まる背景
S&OPへの注目が高まっている背景としては、現代のビジネス環境が急速に変化していることも挙げられます。
例えば、新たな競合の出現や、消費者のニーズが変化した場合、このような変化に対応するために企業内の各部門が連携し、市場の変化に迅速かつ柔軟に対応することが必要です。
そこで、これまでのような販売予測を基にした事前の対応ではなく、急激に変化する市場環境に対応できるよう、製品やサービスを販売した後の対応も重視されるようになりました。企業のグローバル化や収益性重視の考え方が広まる中で、S&OPが重要な施策と捉えられるようになっているのです。
3.S&OPとSCMとの違い ~販売数の予測から市場変化への対応を重視~
S&OPと混同されやすいものとして、SCMがあります。両者はサプライチェーン全体を管理するという点では似ていますが、その目的と範囲には明確な違いがあるのです。
日本の製造業の多くが2000年頃にSCMの構築を進めてきました。SCMは数量をベースとし、製品やサービスが消費者に届くまでの全体的なモノの流れを最適化することに重点を置いています。原材料の調達から製品の製造、そして消費者の元に製品が届くまでの一連のプロセスを管理し、サプライチェーンの効率化を目指すものです。
SCMでは、必要な量の製品を滞りなく供給することに重点を置き、「数量」を軸としたデータ管理で運用されています。
一方、S&OPは利益をベースとし、販売計画と運営計画の統合を重視しています。例えば、企業内部のマーケティング部門における需要予測やCRM(顧客関係管理)戦略と、生産部門の生産販売計画など社内の情報を共有・可視化し、さらに経営計画とリンクすることで、サプライチェーンの最適化、すなわちコストの削減と売上の増大を図ります。
S&OPでは、数量と金額の両方のデータが共有され、「金額」を軸として利益の最大化を目的とした運用が行われます。
これまで、日本ではSCMの取り組みが重視されてきましたが、収益性を高めるための手段として、近年ではS&OPを導入する企業の事例が増加しています。S&OPとSCMは、どちらも企業の競争力向上に貢献する重要な手法ですが、それぞれの特徴を理解し、適切に導入することが必要です。
2)S&OPを導入するメリット
S&OPを導入することによるメリットは多岐にわたります。ここでは、主な3つのメリットについて見ていきましょう。
収益の最大化に向けてより的確な意思決定を行える
まずメリットとして挙げられるのは、S&OPは需要と供給の変動をリアルタイムで把握できるため、収益を最大化するための意思決定が的確に行えることです。
需要と供給のバランスを最適化することで、在庫を適切に管理し、過剰在庫や在庫切れを防ぐことができるため、企業は無駄なコストを削減して利益の最大化を実現することが可能になります。
部門間のコミュニケーションの促進
S&OPを導入することで部門全体の情報が可視化されるため、企業全体の調整プロセスを改善しやすくなるとともに、部門間のコミュニケーションを促進することもメリットです。これにより、企業は一貫した目標に向かって進むことができ、全体としてのパフォーマンス向上が期待できるでしょう。
顧客満足度の向上
S&OPは顧客満足度の向上にも寄与します。需要予測の精度が向上することで、顧客のニーズを的確に予測し、適切なタイミングで製品を提供することが可能になるからです。
これによって顧客満足度が向上し、リピート購入や口コミによる新規顧客を獲得することができます。
3)S&OP導入を成功させるためのポイント
S&OPの導入は、企業の業績を大きく左右する重要なプロセスです。S&OPを効果的に行うためには、しっかりとした計画や準備が欠かせません。
ここでは、S&OP導入を成功に導くために気をつけたいポイントについて見ていきましょう。
目標達成のための明確なシナリオを作る
目標達成のための明確なシナリオづくりは、S&OP導入の重要なステップです。まずは、実現したい目標に対して現時点でどれくらいの実績があるのかを把握し、そこからシナリオづくりを進めていく必要があります。自社の実績と今後の事業目標を明確にし、実現可能かつ明確なシナリオを作成することが大切です。
シナリオを作成した後は、具体的な目標や基準を設定します。目標および目標達成までのプロセスを管理するための指標は、シナリオの精度に直結する重要なもの。シナリオに基づいた実行計画を策定し、実行計画と連動した指標を設定しましょう。
グローバルで統合されたIT環境の構築
S&OPの導入において、ITツールやシステムを活用することは重要です。需要予測や販売計画、供給計画など、必要なデータは多岐にわたります。これらの情報を収集し、一元管理をして情報共有を行うことで、企業全体で意思統一を図ることができます。スムーズな意思決定のためにも各部門のデータを可視化でき、リアルタイムで情報を共有できることが必要です。
また、複数の地域・部門にまたがるグローバルでの情報管理・運用のためのIT環境の整備が欠かせません。地域や部門によって環境が異なっていると、情報共有の難度が高い上、市場の変化に柔軟に対応することも困難です。統一された環境で情報共有の仕組みを整えることで、製造・販売・マーケティング・財務などと経営層が円滑にデータ共有をすることができます。なお、より良いIT環境を構築するには、IT部門だけに任せるのではなく、業務部門もコミットすることが大切です。
段階的に導入する
S&OPの導入は、段階的に行うことで成功率が高まります。なぜなら、S&OPではSCMのように販売部門、生産部門だけでなく、経営層や財務部門も関わるプロセスであるため、企業内の利害関係者が急激に増加するためです。
事前の準備が不足している状態で全社的にS&OPを導入すると、社内が大きく混乱してしまうおそれがあります。いきなり全社で導入せず、特定の部署から部門へ拡大するなど、小規模かつ段階的に導入し、浸透を図るようにしましょう。
適切なKPIを設定する
S&OPを導入する際には、適切なKPI(Key Performance Indicator)を設定することが重要です。KPIとは、組織の目標達成度を測定するための定量的指標であり、S&OPの進捗を評価し、プロセスを改善するための情報を提供します。
まず、KPIはビジネスの目標やシナリオと直接関連するように設定することが必要です。これにより、S&OPが組織の全体的な戦略にどの程度貢献しているかを評価することができます。S&OPにおいて事業目標を達成するために設定するKPIは、部門ごとの需要・供給・生産に関する数値にしましょう。
しかし、最初から全社的にKPIを設定し、運用することは非常に難度が高い取り組みです。
例えば、製品メーカーが全社のKPIとして設定する数値として、在庫日数や納期遵守率がありますが、これらの目標数値を達成するためには部門ごとに需要、供給、生産のKPIを設定し、さらに部門内での主要プロセスにKPIを設定しなければいけません。これらは需要の予測から、生産、出荷までさまざまな領域にわたっており、ゼロから全てを一度に作り上げることはほぼ不可能だと考えられます。
初めは特定の部門に限定してKPIを設定し、段階的に全社へ拡大することを検討することがS&OP導入を成功させるポイントです。
会議体も含めた業務プロセスの可視化
S&OPでは、異なる部門や関係者との連携が欠かせません。そのため、S&OPに関わる業務プロセスを可視化することも重要です。
情報の収集を行うタイミングやサイクル、段階的に導入する にあたってどの順序で行うのかなどを明確にします。S&OPに関わる業務プロセスでは、意思決定を行う会議や参加メンバーなども 明確にすることが大切です。
S&OPの導入においては、専任の担当部署を設置する方法もあります。専任の担当部署で、需要と供給の調整に必要な生産、営業、経営に関連するあらゆる情報を収集・一元化し、情報を収集するために、営業部門、生産部門、物流部門などの関係者の出席を必須とする定例会議を開催するのです。この会議は、情報を集約する場だけでなく、S&OPのプロセスを進めるための場としても利用できます。
定期的な評価と見直し
S&OPでは、定期的なシナリオの評価と目標の見直しが重要です。なぜなら、ビジネス環境は常に変化しているため、定期的に評価と見直しを行うことで、最新の情報に基づいた計画を立てることができるからです。
S&OP導入の際に最初に作成したシナリオや基準は、明確な目標やKPIを設定したとしても時間の経過とともに常に適切であり続けることはありません。初期に策定したシナリオや業務を定期的に点検・評価し、不足点や問題点があれば随時修正を行いましょう。
市場の変化や事業計画の変化に対応し、スピーディーに対応することが重要です。迅速な対応を重ねることで、急速な環境の変化への対応力が向上し、事業目標を達成する確率を高めることができます。
4)市場変化に対応できるよう、S&OPの導入の検討を
S&OPは、企業の販売計画と生産計画を統合的に管理するためのプロセスです。企業を取り巻く環境の変化が激しい現代において、今後ますます重要な手法となっていくことが考えられます。
S&OPの導入には、組織内のコミュニケーションの改善や調整の強化が求められますが、明確なシナリオを作成し、ITツールやシステムを活用することで自社に合った仕組みを構築することが重要です。激しい市場変化にも対応できるS&OPの導入を検討し、企業の収益の拡大とコスト削減を実現するとともに、競争力の強化につなげていきましょう。
株式会社アバントでは、S&OPについて日本を代表する数々のお客様へのプロダクト導入・コンサルティングの支援実績がございます。
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