未来の経営戦略に向けた予算管理: AIの可能性
予算管理は、企業の成功に直結する極めて重要なプロセスです。
しかしながら変動的かつ不確実な時代となった昨今、より高度で緻密な予算管理が求められており、これまでの管理手法からの変革が迫られています。経営の効率化・高度化 を図り、企業経営をより盤石にするために、人工知能(AI)の導入に注目が集まっています。
一方で、AIの具体的な活用イメージや効果が分からず不安要素が多いことから、導入に踏み出せないとお考えの方も多いのではないでしょうか。
本コラムでは、AIが予算管理業務においてどのような領域でメリットを生み出すのか、そしてAIを活用するための前段として必要な仮説思考力ついて探っていきます。
1)予算管理業務におけるAI活用領域
最近では、AI機能を組み込んだ予算管理システムがますます増加しており、いずれも次の3つの領域で主に活用されています。
・Predict(予測)
・Insight(洞察・発見)
・Simulation(シミュレーション)
業務に特化したAIを活用することは非常に効率的で有効です。しかし、実際には「予測の根拠が不明確で説得力に欠けるのではないか」「シミュレーション結果は当たらないと意味がない」「事前準備が必要でかえって時間がかかるのは困る」といった疑問を解消できずに導入に踏み出せない企業が多いことも事実です。AIの不確実性や不透明性への懸念が背景にあると考えられます。
こういった疑問を解消し、AIを取り入れることで得られるメリットを最大限に引き出すためには、現行の予算管理手法を見直し、新たな思考を取り入れることが重要です。
2)予算管理手法の転換:ローリングフォーキャストの実践
AI活用に向けた予算管理手法の見直し方法として、ローリングフォーキャストの実践を紹介します。
ローリングフォーキャストとは:
ローリングフォーキャストとは 、予算をフレキシブルに見直す管理手法です。
期初に策定した年間予算を固定とせず、市場や顧客、競合や自社業績といった様々な経営環境の変化に合わせて都度予測を立て、予測をもとに軌道修正をしながら「行動⇔分析」を繰り返す手法を指します。経営を左右する不確実な要素が多く変動の大きい近年、予算管理だけでなく様々な計画業務で取り入れられています。
ローリングフォーキャストにおける仮説思考の重要性:
従来の予実管理では、期初予算との差異を追う形となりどうしても過去に着目してしまいがちでした。しかし、ローリングフォーキャストは『計画は実績と乖離するものである』と捉え、現状把握から新たな仮説を立てていく「予測管理」という未来志向の考え方です。
また、予測管理では数字そのものではなく、その前提となる仮説を重視することがポイントとなります。言い換えると、予測数値が「当たるかどうか」ではなく、その仮説が「使えるか使えないか」で判断し、行動に落とし込んでいきます。分析でも同様に、予測と実績の数値的な差異ではなく、仮説そのものやそれをふまえた行動を見直します。そうすることで仮説の鮮度を保つことができ、結果として予測の質を高めることになります。
つまり、仮説思考はローリングフォーキャストにおいて計画の精度向上に不可欠な要素といえます。
3)ローリングフォーキャストとAI活用
実際に短いスパンで「予測→実行→分析」のサイクルを回していくうえでは、スピードと正確さが求められます。
仮説検討から行動の見直し・実行までに時間をかけることは仮説の鮮度を下げてしまうことになり、結果として実績との乖離を大きくする要因になってしまう可能性があるためです。担当者の限られた時間の中で円滑にサイクルを回していくためにはAIをうまく活用することが鍵となります。
では、具体的にどのフェーズで活用できるのか、こちらについては以下の図で示しています。
AIは大量のデータを高速かつ正確に処理し、それらのデータからパターンを抽出し、特定のトレンドや傾向を見つけることを得意とします。さらには機械学習アルゴリズムから予測モデルを構築し予測データを瞬時に導き出すことに優れています。
こういった特性は「計画・予測の立案」「仮説の検討」に非常に役立ちます。
具体的な活用例は以下の通りです。
・具体化:過去実績や現在までの推移・トレンド等をもとに多角的な視点で仮説(あるいは検討材料となる条件や前提等)を明確にする
・比較:複数の仮説を比較検討し、意思決定までの発見・気づきを提供する
・モニタリング:必要なデータを自動で判別し見える化・グラフ化する。また特出するべきデータをアラートする
・効率化:結果から見直し実行までのサイクルを短縮
このようにAIが得意とする領域において導入・活用することで、意思決定までのサイクルを短縮することができます。
AIはデータに基づく提案や気づきを提供することは可能ですが、それらに根拠を見いだし意思をもって仮説として行動に落とし込んでいくのは人間の役割といえます。
つまり「AIを活用する=役割分担」であり、これまで多くの時間を費やしてきたデータ収集や分析はAIに任せ、本来最も注力すべき意思決定までの時間を捻出し、勘や経験だけではないデータに基づく分析結果をもとにした検討は、予測の質を高めることにも繋がるのです。
4)まとめ
今回は予算管理におけるAI活用領域や活用のための土台としてローリングフォーキャストの実践と仮説思考が大切であること、具体的には仮説の見直しや予測の立案フェーズにおいてAIの特性を生かすことで業務効率化・計画の質向上に繋がるということをお伝えしました。
さらに効率的にAIを取り入れていくには、業務に特化したAIが搭載されたシステムの採用を検討することも有益です。
株式会社アバントでは、本コラムでご紹介したようなAI活用・予算管理のノウハウや実績からお客様の企業価値向上を実現するコンサルティングサービスや、ソリューションのご提供を行っております。
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執筆者
株式会社アバント マーケティング戦略部 企画グループ 野堀 智夏子
<経歴>
2016年にグループ会社である株式会社ジールへ入社。経営の要でありながらしばしば業務効率化を求められる予算管理業務において複数の経営管理ソリューションの導入プロジェクトに従事。提案~設計/導入まで一気通貫で担当し、業種業界問わず幅広いお客様の事業管理領域における効率化・高度化に携わった経験から、その後プリセールスを経てグループ事業再編を機にアバントに移籍。マーケティング戦略部として、お客様の課題解決に貢献する活動している。
執筆日:2024/2/16