投稿日:2024.03.26
投稿日:2024.03.26

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インタビュー

カルチュア・コンビニエンス・クラブの目指すFP&A組織 ~組織創設の背景と3つの取り組みポイントとは~

日本では、これまで主に経営企画部門や社長室がFP&Aに近い役割を担ってきました。 しかし近年、市場環境の急激な変化やコーポレートガバナンス・コードの策定により、企業トップにとって片腕ともいえる存在としてFP&A部門が設置され、普及し始めています。

こうした背景の中、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社(以下「CCC」)ではFP&A組織を新設。立ち上げのキーマンである、原様、猪川様、奥田様のお三方をお招きし、立ち上げの背景や「自社の管理会計ポリシーを作り」「意思決定を支える経営管理基盤」「顧客価値を最大化するプロ人材の育成」など3つの取り組みのポイントを経営、事業、システムの視点からお話しいただきました。

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
ファイナンス本部 FP&A部 原 恭平 様
ファイナンス本部 猪川 剛生 様
ファイナンス本部 奥田 努 様

株式会社アバント
東日本営業統括部 プリセールスグループ 佐野 誠

写真左から:佐野、猪川様、奥田様、原様
所属は対談セミナー当時のものです

課題

・システムが事業の軸で設計されておらず事業別の採算性を把握するのが難しかった
・人事組織ベースの予算管理が非効率で多階層の複雑な構造になっていた
・事業が多角化する中で毎月、勘定科目が増え続ける。固定費と変動費の仕訳も困難だった

取り組みと成果

・CCCグループ全体の管理会計ポリシーを策定し業績管理に加えて人事評価とも連動が可能に
・事業や組織を横断したP/L管理、経年比較、予実対比ができるようになりつつあり、2024年4月には全社のP/Lが経営管理基盤に移行する予定
・FP&A組織が発足し、各事業でのFP&A人材の育成がスタート。財務の観点から意思決定できる姿へと変革中

登壇者紹介

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
ファイナンス本部 FP&A部 原 恭平 様

監査法人にて大手製造業・小売業を含む財務諸表監査、内部統制監査及びIPO支援業務に5年従事。その後、上場企業の小売業にて経理1年、経営企画6年経験した後に、現職にてFP&A部を立上げ、事業ポートフォリオ管理、管理会計ポリシー・管理会計システム及びBIの導入含む経営管理の仕組みの構築に従事。

ファイナンス本部 FP&A部 猪川 剛生 様
非上場企業1社および上場企業2社において、主に連結決算・開示・子会社管理等を中心とした経理業務に約10年従事した後、2019年にCCCグループに入社。今年度よりFP&A部に参画し、事業ポートフォリオ管理、管理会計ポリシー・管理会計システム及びBIの導入含む経営管理の仕組みの構築に従事。

ファイナンス本部 FP&A部 奥田 努 様
2003年カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社中途入社。
直営店の運営スタッフに従事し、2015年からTSUTAYA FC事業に異動し、地域支社の営業管理と事業管理、2020年に直営店の事業管理を経て、2023年現職の事業FP&Aに至る。事業管理では、TSUTAYA FC事業の地域支店や直営店の予算管理を担当。

[進行] 株式会社アバント
東日本営業統括部 プリセールスグループ 佐野 誠

15年以上の国内ERPベンダーでシステムエンジニア、プリセールスとして単体財務・単体管理会計及び販売管理システムの提案・導入に従事。アバントに参画後はプリセールスとしてグループ経営管理、ROIC経営といったテーマで多くのお客様の経営管理高度化を支援。ERP導入経験を活かしながら、事業部から集めたデータをいかにコーポレートで活かすか、シミュレーション等の高度化を実現するかといった提案に強みを持つ。

ポートフォリオ経営の実現を目指した改革の始まり

佐野:本日はよろしくお願いいたします。まずは会社紹介と今回のプロジェクトについてご説明いただけますでしょうか。

原様 :私どもCCCグループは、TSUTAYAをはじめとする店舗ビジネスとTポイントを通じたデータベースマーケティングの2つの主要事業を運営しています。2023年4月からトップが交代し、第2創業期を迎えているというフェーズです。

今回のプロジェクトは、弊社グループの経営管理の変革として、ポートフォリオ経営を実現することをゴールとして定めています。

このゴールを実現するために、以下の3つのプロセスが必要だと考えました。
1)管理会計のポリシーを作ること
2)システムを刷新して分析ツールを作ること
3)スキルをアップデートする(リスキリング)

佐野:ありがとうございます。今日は上記の3つの順に、当時の思いや工夫、苦労などを振り返っていただきます。

グループの管理会計ポリシーの整備に着手

佐野:グループ全体の管理会計ポリシーを作るまでの経緯をお教えください

原様:これまで弊社グループでは、組織や科目が毎月のように増加する構造になっており、事業横断の管理や経年のデータを比較できないという課題がありました。また、人に紐づいた組織設計になっていたため、事業ベースでの管理・把握が非常に困難な状況にありました。組織構造も非常に複雑で、予算管理の側面から見ると非効率な部分が多々ありました。

例えば、ある事業部門が複数の法人にまたがっていたり、逆に1つの法人の中に複数の事業部門が存在していたりと、組織と事業の関係性が錯綜していました。このような状況では、事業ごとの収益性を正確に把握することが難しく、適切な経営資源の配分も困難でした。

これらの課題を解決し、グループ全体の経営効率を高めていくために管理会計ポリシーを整備し、事業ベースでの管理を可能にしたいと考えました。そこで、管理会計ポリシーの策定に着手することにしたのです。

佐野:管理会計ポリシーを作る上で、具体的にどのような取り組みをされましたか?

原様:管理会計ポリシーを作る上で、まず取り組んだのが組織階層の整理です。弊社グループでは、これまで10階層もの組織階層が存在していました。これでは責任の所在が曖昧になってしまい、効率的な管理が難しい状況でした。そこで10階層あった人事組織の圧縮作業に着手しました。

奥田様:どこをどう変えればいいのかも手探りの難しい作業でしたが、経営者、事業部長クラス、マネージャーや店長クラスなどと組織階層のマッピングを工夫して整理していきました。その結果、10階層を4階層にまで圧縮できました。

原様:グループ全体の組織構造を可視化でき、どの部門がどの事業を担当しているのかが把握しやすくなったのは大きく、事業ベースでの管理が可能な体制が整いました。

事業サイドとの調整を丁寧に粘り強く行う

佐野:しかしながら組織構造は変わっていきますね

原様:予算管理だけを考えればひたすら圧縮して採算性という軸に統一すればよいでしょう。しかし経営のニーズによって人事組織はコロコロ変わってしまうのが実情なので、検討を重ねた結果、組織でとらえる人事的な評価の軸と、採算性でとらえる軸を切り替えられるような「折衷型」に着地させたのが今回のポイントかなと思います。
そのうえで、採算性の軸に合わせて、複数事業のポートフォリオ経営を目指すという道筋を見据えました。

猪川様:今回もう1つ「法人をまたいで事業で管理する」というのも重要な発想の転換でした。私は経理畑出身なので、従来型の法人ごとに管理するというのが当たり前でした。しかし、事業ベースでの管理を徹底するために、法人の枠を超えて「グループ事業を管理する」仕組みが重要だというのは理解できましたが統一的に揃えるのは難易度が高いとも感じていましたね。

佐野:勘定科目の整理にも取り組まれました。この意図というのは?

原様:管理会計ポリシーを整備する前に、事業の多様性からグループ内で膨大な数に膨れ上がっていた勘定科目にもメスを入れる必要がありました。当時、勘定科目の総数は1,000を軽く超えており、なんとか歯止めをかける必要があったのです。

当然、どの勘定科目がどの事業に紐づいているのかを把握することさえ苦労するので、経営管理上非効率なのは明らかでした。

佐野:新たに「限界利益」を把握しようとされました

原様:はい。固定費と変動費を明確に区分することも重要な課題だと感じていました。事業部門ごとに、どのコストが固定費で、どのコストが変動費なのかを明確にして、その結果として限界利益を明らかにすることで、きめ細やかな収益管理を行いたいと考えました。とはいえ、事業によって、また人によって尺度が変わるので勘定科目の取捨と固定費・変動費の定義は難航しました。

奥田様:そのために導入したのが「アイテム(商品)」という概念です。アイテムとは、勘定科目をさらに細分化した単位で、例えば、「店舗売上」という勘定科目の中に、「レンタル」「GAME」「音楽」といった商品別のアイテムを設定します。

このアイテムを使うことで、より詳細なコスト管理が可能になりました。ただ、アイテムの設定には、事業部門ごとの特性を考慮する必要があり、その調整にも時間を要しました。この設定を誤ると、かえって複雑になるので事業部とのすり合わせは慎重に繰り返し行いました。

佐野:このあたりだいぶご苦労をされましたが1つの結論が出ましたね

猪川様:立ち上げまでが大変だったのは間違いないのですが、実はその後のマスタの整備も欠かせません。勘定科目やアイテムのマスタは、組織変更や新事業の立ち上げなどに合わせて、常に最新の状態に保つ必要があります。

原様:せっかく採算性の「軸」を新しく作ったのだから、管理会計は事業評価に加えて人事評価にも紐づくべきだと考えて、責任センターの定義を行いました。FP&Aだけじゃなくて人事とも議論して決めていきました。
従来はすべての部署がプロフィットセンターで売上や利益を目指していましたが、改めて部門ごとの役割の違いを整理し、コスト管理を行うコストセンター、将来の利益のための戦略センターという3つの概念に分けて、それぞれ正しい評価方法を再定義したのです。

AVANT Cruiseの導入とBI連携により必要な情報を可視化

佐野:管理会計ポリシーを定義し、それをシステムに落とし込んでいく作業に着手されました

原様:作成したポリシーへの思いをシステムに込めることが大切です。そのために、まず各事業のフロントシステムと財務会計のデータをAVANT Cruiseに取り込む仕組みを構築しました。各事業のデータをAVANT Cruise に集約することで、事業間の比較分析や、グループ全体の業績管理がスムーズに行えるようになりました。さらにtableauのような分析ツールと連携させて可視化や高度な分析も容易に行えるようにしていきます。

佐野:システムを刷新した効果はすでに現れていますか?

原様:まず予実管理が各部門で簡単に行えるようになったことはわかりやすい変化です。以前と比べて、予算と実績の比較がリアルタイムで、少ない操作でできるというのは画期的だと思います。数字が悪ければすぐにアクションを起こせますし、事業部門間の比較分析も容易になったのでどこに問題があるのかもすぐ把握できます。

猪川様:今後、予実管理の精度を上げていくためには、BIツールで可視化するだけでなく、「見方」を揃えることも重要だと考えています。データの定義や集計のルールを統一して、誰が見ても同じ基準で判断できるようにするまではもう少し時間がかかるでしょう。

原様:そのために、ドリルダウンやドリルスルーの概念を社内に浸透させていきたいと思っています。ドリルダウンとは、データを集約したレベルからより詳細なレベルまで掘り下げる機能で、ドリルスルーによってデータを横断的に見ることができます。データを多角的に見ていく力を養うことが、ポートフォリオ経営の実現には欠かせません。

佐野:多様な分析はAVANT Cruiseの強みでもあります。さまざまな機能を活かせそうでしょうか

原様 :今後、誰もが「一目でわかるようにする」こともAVANT Cruiseに期待しているポイントです。財務会計システムから得られる生のデータは、管理会計の観点からするとむしろ細かすぎて不便なのです。だからグループ内で見方やデータの粒度を統一して、必要な情報を一目でわかるようにしたいと思います。

奥田様:ただ一方、現場によっては細かな粒度が必要な場面もあるので、そうしたニーズにも対応できることが重要ですね。

原様:さらに言えば、データを見ることが目的にならないように注意しなくてはなりません。だからデータを細かく見過ぎるのも違います。その後の改善アクションにつながらないと意味がないので、分析のルールも整備していく必要性を感じます。

コーポレートと事業部をつなぐFP&Aプロ人材を育てる

佐野:続いて組織の話をお聞きします。2023年に経営管理部からFP&Aへ組織改編されました

原様 :新設されたFP&Aの機能は2つです。
ここまでご説明した事業ポートフォリオの正しい評価により、経営資源を再配分するということが1つ目の機能である本社FP&A、経営・CXOのビジネスパートナーとしての機能です。そして、もう1つは事業FP&A、すなわち業績目標の達成や事業の意思決定支援をするビジネスパートナーとしての機能です。

「数字のプロ」が伴走することで、事業責任者による意思決定の質が高まり、ひいては業績目標の達成度が高まることを経営側に伝えたほか、社員個人のキャリアパスが明確化するメリットも説明しました。売上目標や経費の状況を正しく分析できる段階にとどまらず、改善の「提案」をできるのが数字のプロです。優れた提案が出され採用されれば、自ずと事業が好転する可能性も高まるというわけです。

組織改編に向けては半年以上前から仕込みをしていました。外部の講師を招いて研修を行い、「FP&Aとは何か」というところから社内の理解を促進し、同時にFP&Aのスキルセットや評価基準も準備してきたという流れです。

佐野:さらに従来の経営管理部に所属しているスタッフに加えて、事業部側からも公募して組織づくりをされたそうですね

奥田様:私も公募に手を挙げたうちの1人です。事業FP&Aはスタートしたばかりですが、過去にそれと近い仕事に携わった経験があったことから、事業支援の仕事をしたいとかねてから思っていました。

実際に異動し、FP&Aとして事業責任者に伴走することで成果が出せていくのではないかと思います。本格的には、まだ多少時間はかかりますが、すでに一定の手ごたえは感じています。

原様:率直に言えば、事業FP&Aが責任者から信頼を獲得する期間は必要です。会話を増やし、関係性が深まるにつれてシナジーが生まれていくと期待しています。

佐野:経理のプロからの視点では今回の変化はどう捉えていますか

猪川様 :経営管理という点で会計的な知識が必要だと感じています。先ほども申し上げたように私は経理部門に長くいたので、よくも悪くも経理的な観点が強くて「細かく、正しく突き詰める」という職種のこだわりが先行しがちです。

私たち自身も意識を切り替えて、経営管理としての意識を持たなければいけないと思います。

高度化の推進:アクション管理やシナリオプランニング

佐野:現在達成したP/Lの可視化はまず第一歩かと思います。今後への期待や決意をお聞かせいただけますか

猪川様 :そうですね。現在のP/Lに加えて、B/Sやキャッシュフローの機能もローンチされる見込みです。それによって各部門が管理可能な資産をどれだけ投入して、そこからどれだけリターンを得られるかが分析でき、必要なアクションが生まれるようになることを期待しています。

奥田様 :P/Lに財務データを取り込んで可視化する、そして事業の正確な見込みを立てることに活かして、各アクションを取った場合のシナリオプランニングの精度を高めていきたいと思います。高精度な予測ができれば、各事業への支援の質も高まると思います。

原様:高度化という点では「見込とアクション管理」が特に重要かと思います。

●明細を正しく管理する
●明細の粒度に合わせて見込みを更新
●ローリング・フォーキャストを継続
●アクションを計画・実行

最終的にこのフローをたどって、どのようなアクションを取るかがポイントになります。
また先ほどもあったシナリオプランニング戦略の策定支援は重要です。予測、シミュレーションに活かして、新たな中期経営計画や事業戦略を立てる際の力になってくれることを期待しています。

まだまだ道半ばなので、アバントさんのサポートへの期待大です。これからもよろしくお願いいたします。

佐野:FP&A、ポートフォリオ、管理のポリシーという理念や理想像を先に作って逆算していくプロセスが参考になりました。
これからも理想の実現に向けて、ぜひご支援できればと思います。
本日はありがとうございました。

ご登壇企業とお取組みの背景

カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社
TSUTAYA、蔦屋書店をはじめとする店舗ビジネスとポイント事業を軸にアート、カーライフなど新しいライフスタイルを提案する企画会社。事業間で管理粒度が異なるため、事業横串での採算管理・投資効果の分析において、当時の仕組みでは対応に課題があり、経営と事業を接着させる役割としてFP&A組織を創設。
今回の取り組みにおいて弊社は、FP&A組織の立ち上げの一環として経営管理基盤をご支援。

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