資本コストの重要性や求め方を解説~資本コストを意識した経営を実現するために~
「資本コスト」とは、企業が資本調達・維持のために支払う必要な費用のことです。資本コストには、株式や債券、銀行ローンといったさまざまなコストが含まれています。そのため、企業が財務状況を踏まえた上で経営戦略を立てるにあたり資本コストを理解することは欠かせません。
そこで本記事では、資本コストの概要や種類、計算方法などについて解説します。併せて、資本コストを下げる方法や、資本コストを意識した経営を実現するためのポイントについても見ていきましょう。
1)資本コストとは資金調達にかかる費用のこと
冒頭でも触れたように、資本コストとは企業が資本を調達するにあたり、債権者や投資家に支払う必要がある費用のことです。
企業が資本調達をする手段としては、主に銀行から融資を受けたり株式を発行したりする方法がありますが、その際に銀行へ利子を支払ったり株主へ配当を行ったりする必要があります。このように、債権者や投資家へ支払うべき費用が資本コストです。
なお、資本調達は、ほとんどの企業が複数の手段を併用して行います。そのため、資本調達において発生するコストにもさまざまな種類が存在しますが、その総称が資本コストとなります。
資本コストは2つに分類される
資本コストは、大きく「株主資本コスト」と「負債コスト」の2つに分けられます。それぞれどのようなコストなのかを見ていきましょう。
・株主資本コスト
株主資本コストは、株主からの出資によって調達した資本に対して発生する費用で、自己資本コストとも呼ばれます。株主からすると、企業からの配当金、あるいは株価自体の値上がり(売却益)への期待と捉えると分かりやすいでしょう。
株主は、配当金を目的として投資をするのが一般的です。例えば、5%の配当を見込んで5万円の投資をしている株主に対しては、2,500円の資本コストが必要ということとなります。企業は、株主に対して期待収益以上の配当を出せるように経営をしなければなりません。ただし、株価はその時々の企業価値や業績、情勢などの影響を受けて変動するため、的確に算出することは難しいということも留意しておくことが必要です。
・負債コスト
負債コストとは、銀行などの金融機関からの借り入れによって調達する負債にかかるコストです。金利や社債発行の際にかかった費用などが該当し、他人資本コストとも呼ばれます。例えば、年利5%で10万円を借り入れた場合は、1年後に利息を含めた10万5,000円を返済しなければなりません。この利息分の5,000円が負債コストです。
負債コストは、どの金融機関から融資を受けるのかによって変わってきます。また、借入期間が負債コストに影響するケースもあるため、借入先と借入期間は慎重に検討する必要があるでしょう。
経営における資本コストの重要性
昨今の企業が経営戦略を立てるにあたり、資本コストはどのような意義を持つのでしょうか。
まず、2018年6月に改訂された株式会社東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード 」において資本コストを意識した経営が求められたことで、資本コストに対する意識と理解が企業価値の向上にもつながるという考え方が広まりました。
必要な資本コストを把握できずに経営を続けても、それを上回る収益は見込めず、株主の求めるリターンや配当も実現できなくなるからです。
さらに、2023年3月には株式会社東京証券取引所から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」が発表されました。
これは、上場企業に対し、持続的な成長と中長期的な企業価値向上の実現のために、資本コストや株価を意識した経営の実践を求めるものです。このような背景もあり、多くの企業が資本コストを意識・理解した上で利益を生み出し、株主の期待にも応えながら企業価値を向上させる取り組みを進めています。
2)資本コストの計算方法
資本コストの計算方法は、株主資本コストと負債コストを時価で加重平均する方法が代表的です。
そこで活用したい指標が「WACC(加重平均資本コスト)」です。WACCはWeighted Average Cost of Capitalの頭文字を取った略称で、企業の現在の事業価値を計算する指標として用いられています。
WACC以上の利回りをあげることができれば、負債コストと株主資本コストの両方をカバーし、債権者と株主を共に満足させることができます。
WACCの計算式は、次のとおりです。
<WACCの計算式>
WACC=株主資本コスト×株主資本÷(株主資本+負債)+負債コスト(1-実効税率)×負債÷(株主資本+負債)
3)資本コストが高くなる主な原因
資本コストは基本的には低い方が良いとされていますが、実際は利益を上回ってしまうケースも考えられます。資本コストが高くなる主な原因として挙げられるのは、次のようなものです。
事業リスクの高い組織構造
組織構造にはさまざまな形態がありますが、中には事業リスクが高く、コスト面の負担が大きい形態も存在します。事業リスクの高い組織構造の場合、投資家はより高いリターン・配当を求める傾向があります。
資本コストを引き下げるために、事業リスクの低い組織構造へ見直すのも一つの方法です。
借入利率が高い/会社へ適用する税率が低い
金融機関からの借入利率が高い、あるいは会社への適用税率が低い場合は、資本コストが高くなる可能性があります。
資本コストが高い場合、次項で紹介する資本コストを下げる方法も踏まえて、負担を軽減する手段を検討してみましょう。
4)資本コストを下げる方法
資本コストが高くなる主な原因をお伝えしましたが、企業規模や業種内容、設立年数などによっても資本コストの大きさは異なります。そのため、自社の状況に合わせてコスト面の負担を下げる方法を検討しなければなりません。
ここでは、資本コストを下げるための方法を、2つのポイントに分けて見ていきましょう。
リスク情報の開示
自社のリスク情報を金融機関や株主、投資家などのステークホルダーへ開示することで、資本コストを下げられる可能性があります。
これまでの解説のとおり、株主や投資家は、会社に対し利益を求めて出資するため、会社情報の開示は、投資の判断材料として有力です。リスク情報を開示することで投資家の期待値が下がり、求められるリターン・配当が軽減されることも期待できます。結果として、株主資本コストを下げることにもつながるでしょう。
また、融資をする金融機関は、貸し付けた資金が返済されないリスクが低いことを把握した上で融資をしたいと考えるものです。リスク情報を開示して金融機関を安心させることができた上で借り入れを申し込めば、金利が軽減される可能性も生まれます。リスク情報の例としては、財政状況や経営成績の変動、企業特有の経営方針などが挙げられます。
低金利での借り入れ
銀行などの金融機関から融資を受ける際、高金利で借り入れると、資本コストとして上乗せされる利息も高くなります。そのため、負債コストを抑えるためにも、できるだけ低金利で借り入れられる金融機関を探すことが大切です。
また、借入先を選ぶ際は、金利の種類や借入期間も比較検討しましょう。融資を受ける際は、固定金利と変動金利のどちらかを選びます。低金利に設定されているのは変動金利であるケースが多いですが、変動金利は借り入れるときは低金利でも、将来的に適用される金利が変動し、高金利になるケースもあります。
そのため、長期間借り入れる場合は、固定金利の方が負担を抑えられる可能性もあるため、慎重に検討することが大切です。
5)資本コストを意識した経営を実現するには?
資本コストを意識した経営を実現するためには、長期的な目線で継続していく取り組みが欠かせません。
ここでは、資本コストを意識した経営を実現するための取り組みについて、4つのステップに分けて見ていきましょう。
資本コストの現状を把握し、分析する
まずは自社の資本コストを的確に把握した上で、資本コストを上回る収益性があるかどうかを分析しましょう。資本コストを上回る収益性を達成できていない場合は、その原因を特定する必要があります。
また、自社の収益性や成長性を客観的に判断するためにも、必要に応じて時系列で分析したり、他社と比較したりすることも大切です。
資本コストに対する収益性の分析・評価を行うにあたり活用できる方法としては、WACCとROICの比較や、株主資本コストとROEの比較などが挙げられます。
企業全体の資本収益性の分析・評価に加えて、特定のプロジェクトや事業ごとにWACCやROICを算出すれば、より詳細に資本収益性を分析し、投資のリスクとリターンを判断した精査も期待できます。
改善計画を検討する
次に、資本コストや資本収益性の分析結果に基づいて、優先的に取り組むべき課題や中長期の目標を検討します。
収益性や成⻑性について十分な⽔準を達成できていない、評価が得られていないという課題がある場合は、その要因を分析した上で、改善策を検討していきます。事業ポートフォリオや各種投資も見直して、経営資源を適切に配分できるようにすることが大切です。
収益性や成⻑性について⼀定の⽔準や評価を得られている場合でも、投資者の期待を上回る経営を継続できるよう、さらなる収益性・成長性の向上に向けた取り組みを検討しましょう。
なお、改善に向けた具体的な取り組みについては、取締役会で検討し、策定する必要があります。
※事業ポートフォリオについては下記をご参照ください。
事業ポートフォリオとは?メリットや作成方法、活用のポイントを解説
取り組み内容の開示
ステップ1で行った現状分析の結果と共に、ステップ2で検討した具体的な取り組み内容やその実施時期を株主・投資者へ分かりやすく開示する必要があります。
改善計画の方針や目標、具体的な取り組みや実施時期を開示するにあたり、書類やフォーマットに定めはありませんが、経営戦略や決算説明資料、自社ウェブサイトなどの中で示す方法が一般的です。
また、資本コストや株価を意識した経営を推進しつつ、開示内容に基づいて投資者との積極的な対話を実施することも企業には期待されています。対話における投資者からの評価やフィードバックも踏まえて、企業の取り組みをブラッシュアップしていくことが重要です。
さらに、株主・投資者からの求めに応じて社外取締役も対話に参加することも望ましいでしょう。株主・投資者がその企業のガバナンスの現状を理解し、評価するにあたり、経営を監督する立場にある人が対話に参加することは有効です。
取り組みの実行、見直し
策定した資本収益性の改善に向けた取り組み内容に基づいて、資本コストを意識した経営を行っていきます。株主・投資者へ向けた開示も一度実施したら終わりではなく、対話から得られたフィードバックも踏まえて年1回以上の頻度で進捗状況を分析し、開示内容をアップデートしていかなければなりません。
開示内容をアップデートする上では、これまでの取り組みの状況や目標達成に向けた進捗状況、株主・投資者との対話内容などを分かりやすく示すことが大切です。また、目標や取り組みに変更がある場合は、その内容も示します。
開示内容をアップデートする時期について、特定の定めはありません。ただし、すでに開示している計画に大きな変更があった場合は、速やかに開示内容を更新することが望ましいでしょう。
6)企業価値の向上に向けた資本コストを意識した経営を実現しよう
資本コストは、低ければ低いほど企業価値の向上につながるもの。そのためにも、自社の資本コストを分析・評価し、持続的な資本収益性や成長性の向上に向けた取り組みを株主・投資者へ示すことが大切です。自社の資本コストを適切に評価した上で資本分配を見直したり、適切な戦略を立てられているかを判断したりしましょう。
資本コストを意識した経営を実現するためには、現状分析の結果や具体策の開示およびそのアップデートについてもできる限り速やかな対応が求められています。
株式会社アバントでは、企業価値の向上を実現するためのコンサルティングサービスや、分析に役立つツールのご提供を行っております。企業価値向上の支援に関するご相談など、お気軽にお問い合わせください。