投稿日:2024.06.13
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企業価値とは?役割や評価方法、企業価値を高めるメリットを解説

社会における企業の価値を「企業価値」と呼びますが、具体的にどのような方法で評価し、何に対しての指標としているのか分からない方もいらっしゃるのではないでしょうか。
また、企業価値の他にも「時価総額」や「事業価値」などを用いることもあるため、その違いも確認しておきたいところです。

そこで本記事では、企業価値の基本的な定義や評価方法、他の指標との違いを解説した上で、企業価値に影響する要因や企業価値を高める方法などについても紹介します。

1)企業価値とは、企業全体の経済的価値のこと

企業価値は、現時点での社会における企業全体の経済的価値を示し、投資やM&Aなどの根拠や基準となるものです。
企業価値の捉え方はさまざまで、近年は事業によって生み出される価値だけでなく、非財務価値も企業価値に含まれる傾向があります。また、企業の生み出すキャッシュフローの割引現在価値や、将来的に得られる利益も現在の企業価値に含むといった捉え方もあります。
他にも、企業価値には事業価値に加えて 、次のような資産や価値を含む捉え方が一般的です。

<事業価値以外に企業価値に含まれるものの例>
・預金や遊休地、投資用有価証券などの非事業用資産
・超過収益力(現時点では測定しえない潜在的な企業価値)
・貸借対照表に計上されない無形資産・知的財産

2)企業価値の役割

企業価値は、その企業の成⾧性や将来性を示す指標の一つです。また、企業価値から社会的な位置付けを測ることもでき、企業価値が高ければ高いほど M&AやTOB(株式公開買付け)の交渉において優位性を確立できるため、倒産防止にもつながります。

経済が不透明さを増し、市場のグローバル化といった経営環境の変化 が著しい現代社会において、企業価値は重要性を増しています。企業は、運営存続のために自社の成⾧性や将来性を明確に示すことが必要であり、そのためには、企業価値を正確に見極めることが求められているのです。
また、企業は利益の追求だけではなく、社会的責務を果たすための倫理的な行動も求められるようになっています。社会における 企業価値を明確にし、企業の魅力や存在価値を可視化する必要があるのです。

3)企業価値と時価総額や事業価値との違い

企業価値と混同されやすい言葉として、「時価総額」や「事業価値」があります。これらの用語との違いを確認しておきましょう。

時価総額:株価の総額

時価総額とは発行している株価の総額のことで、ほぼ同等の意味で「株主価値」と呼ばれる場合もあります。
時価総額は企業価値を構成する要素の一つで 、時価総額に有利子負債を足すことで、最終的な企業価値として捉えることもできます。有利子負債は、企業が利息を加えて返済しなければならない負債です。負債であっても、それを回収できると投資家や金融機関が判断していることで、企業価値の一部として見なされます。

なお、自己資本比率100%で有利子負債がゼロの場合は、「企業価値=時価総額」が成り立つように、時価総額を企業価値で測るケースもあります。

事業価値:事業から生み出される価値

事業価値とは企業が取り組んでいる 事業から生み出される価値を示すものです。事業価値と企業価値との関係は、次のような式で表せます。

<企業価値と事業価値の関係性を表す計算式> 企業価値=事業価値+事業以外の価値(非事業用資産)

この式から分かるとおり、事業価値は、企業価値を構成する一部の要素です。
企業価値は企業の保有する資産や負債が全て含まれるため、預貯金や遊休地、投資目的の有価証券といった非事業用資産も含めて算出されます。なお、不動産や投資有価証券などは時価評価する必要があります。

4)企業価値の主な評価方法

企業価値の 評価方法は複数ありますが、「インカムアプローチ」「マーケットアプローチ」「コストアプローチ」の 3 通りの手法に大きく分けられます。それぞれの特徴について、詳しく見ていきましょう。

インカムアプローチ: 将来得られる収入や利益に基づいて、企業価値を算出する評価方法

インカムアプローチは、将来的な利益予想やキャッシュフロー予測に基づいて企業価値を算出する、企業の収益性に着目した 評価方法です。具体的な計算方法としては、当期純利益の現在価値を基準とする「収益還元法」や、フリー・キャッシュフローを基準とする「DCF 法」が挙げられます。

企業の持つ固有の成⾧性や将来性を踏まえて企業価値を算出するため、企業の存続を前提とした手法といえ、M&Aや投資といったさまざまな局面で利用可能です。
ただし、インカムアプローチにおける将来的な利益予想やキャッシュフロー予測は主観的な評価となるため、客観性を欠くという側面もあります。関係者の全てが納得できる根拠を示す必要がある点に留意しましょう。

マーケットアプローチ: 類似する企業や事業と比較し、相対的に企業価値を算出する評価方法

マーケットアプローチは、上場している類似企業を比較対象とし、相対的な企業価値を算出する方法です。
具体的な計算方法としては、一定期間の平均株価を基準とする「市場株価法」や、業種を基準とする「類似会社比較法」があります。類似会社比較法は、選定した類似企業の株価などを基に評価倍率(マルチプル)を導き出し、相対的な企業価値を算出することから「マルチプル法」とも呼ばれます。

実際に株式取引を行う上場企業を比較対象とするため、客観性に優れる点がメリットです。M&Aや、IPO 直前の企業価値の算出方法としても利用されます。
ただし、事業規模や業種が一致する類似企業を見つけることが難しいというデメリットがあります。類似企業と判断するための明確な基準を設けた上で、比較対象を見つける必要があるでしょう。また、マーケットアプローチは、市場変動のリスクを受ける可能性もある点に留意しなければなりません。

コストアプローチ :貸借対照 表の純資産額を基準に企業価値を算出する評価方法

コストアプローチは、企業における純資産の時価評価額を基準として企業価値を算出する方法です。計算方法としては、貸借対照表の価額を基準とする「簿価純資産法」や、保有する資産と負債を基準日時点の時価へ換算し、資産から負債を差し引いた純資産を企業価値とする「時価純資産法」などがあります。

コストアプローチでは、基本的に貸借対照表に記載されている資産のみを考慮するため、企業価値を算出しやすいというメリットがあります。
ただし、この方法ではあくまでも算出時点の資産としての評価しかできず、将来的な収益価値を含めた企業価値は算出できません。企業の存続を前提としないため、利用できるのは会社の清算など限定的です。

5)企業価値に影響を与える 5 つの要因

企業価値に影響を与える要因はさまざまですが、日本公認会計士協会による「企業価値評価ガイドライン」によると、大きく5 タイプに分けられると考えられています。
5つの要因が、それぞれ具体的にどのようなものを示すのかを見ていきましょう。

目的要因

目的要因とは、企業価値を算出する目的を示すものです。企業価値を算出する目的次第で、企業価値を形成する要因の捉え方も大きく変わってきます。適切な企業価値を算出するためにも、まずは目的を明確にすることが重要です。

<目的要因に該当するもの>
・取引目的
・裁判目的
・処分目的
・課税目的
・PPA 目的

一般的要因

一般的要因とは、物価や消費、金融などのマクロ的な要因を示すものです。企業価値は、社会・政治の状況や景気動向などのマクロ的な要因からも大きな影響を受けます。これらは企業側がコントロールできない要因ではありますが、企業価値を算出する際に考慮すべき要素の一つです。

<一般的要因に該当するもの>
・社会的要因
・政治状況
・経済政策・景気対策
・法令
・景気動向

業界要因

業界要因とは、評価対象の企業が属する業界の動向や状況による要因を示します。一般的要因と同様に企業側がコントロールできる要因ではありませんが、業界の市場環境も考慮した企業価値は、客観性に優れたものと評価できます。

<業界要因に該当するもの>
・業界おけるライフステージ(創成期、成⾧期、安定期または衰退期)
・業界の組織再編の動向
・類似上場会社の株価動向
・同業他社の経営戦略転換
・同業他社の業績変化

企業要因

企業要因とは、業種・業態や企業の収益性といった企業内部の要因で構成されたものです。一般的要因や業界要因とは異なり企業側がコントロールできるものでもあるため、5 つの要因の中で最も改善しやすいといえるでしょう。

<企業要因に該当するもの>
・業種、業態および取引規模
・企業のライフサイクルにおけるライフステージ(創成期、成⾧期、安定期または衰退期)
・経営戦略や経営計画とそれらの達成状況
・収益性
・財政状態
・配当政策
・経営、営業、技術、研究等の特異性

株主要因

株主も、企業価値に影響を与える要因の一つになります。主な要因としては、次のようなものが挙げられます。

<株主要因に該当するもの>
・株主構成(株主の集中、分散の状況)
・株主関係(同族関係、支配株主関係、一定の株主グループの形成状況)
・株式の種類と発行状況(普通株式、種類株式)
・取引後の株主構成の変化
・取引数量(全量、大量、中量または少量)
・過去における売買の事例(株式の流動性の状況)
・株式譲渡制限の有無

6)企業価値を高める 3 つのメリット

企業価値を高めることで、具体的にどのようなメリットが期待できるのでしょうか。ここでは、3 つのポイントに分けて見ていきましょう。

資金調達がしやすくなる

企業は事業資金の調達のために、投資家や金融機関から融資を受けることがあります。債権者側の視点で考えると、その企業の返済能力を総合的に判定し、資金回収リスクを見極めなければなりません。
その際、企業価値が高ければ未回収リスクが低いと見なされ、好条件で融資を受けやすくなることが期待できます。調達した資金を元手に安定的な企業成⾧を図ることができれば、より企業価値を高められるでしょう。

倒産のリスクを抑えられる

企業価値の高い企業は、安定した収益性を維持できているケースが多いです。言い換えるならば、企業価値とは「その企業が社会においてどのくらい必要とされているか」という指標でもあります。
安定的な収益性を維持できていることはその企業が健全な状態であることを示すため、倒産リスクは極めて低いといえるでしょう。

M&Aの際に有利に進められる

企業価値は、M&Aの取引価格を決める重要な判断材料の一つにもなります。M&Aの成否に大きく影響するため、交渉を有利に進めるためにも企業価値の算出と向上は欠かせません。
M&Aには明確な相場が存在せず、買い手と売り手の双方が納得する取引価格を決めるためには、何らかの基準を設けて金額を提示することが必要になります。そこで活用できるのが企業価値です。適切な企業価値を提示することができれば、高水準での交渉が期待できるでしょう。

7)企業価値を高める方法

企業価値を高めるには、企業は具体的にどのような取り組みを実践すればいいのでしょうか。
ここでは、企業価値の向上に向けて実現したい 5 つの取り組みをご紹介します。

収益性の向上

企業価値を高める方法としてまず挙げられるのが、収益性の向上です。収益性を向上するには、中⾧期的な経営戦略を立てた上で、売上高の向上や経費の削減をしていく必要があります。

売上高の向上を目指すには、効果的な営業や広報、収益力のある商品・サービスの開発などが考えられます。
経費の無駄を省くだけでなく、販売体制を見直し、原材料費や人件費を適切に削減することも結果的に収益性の向上につながるでしょう。

財務の改善

財務状況を見直し、負債を減らすことでも企業価値を高めることができます。企業価値には株主価値と負債価値が含まれるため、負債が減少すると企業価値も減少しますが、自己資本比率が高まるため、結果的には企業価値の向上が期待できるでしょう。
一般的には、自己資本比率が 50%以上の会社は財務的に良好な状態と見なされ、融資なども受けやすいといわれています。

投資効率の向上

企業の資金や資産を投資にあてて、できる限り有効活用することも企業価値を高めるポイントです。投資効率を向上させる方法としては、不要な資産や在庫の見直しが挙げられます。

例えば、事業に運用していない土地や建物などは非事業資産として企業価値に含まれますが、そのままでは収益力がなく、固定資産税も課せられてしまいます。
こうした不要な土地や建物は売却したり、事業に関連する形で運用したりすることで、無駄なく投資・運用していくことができるでしょう。

企業と従業員のエンゲージメントを強化する

エンゲージメントとは、企業と従業員のつながりの強さを意味します。エンゲージメントの高い企業は、従業員が企業に対して信頼感や貢献意欲を持っていると考えられているのです。
優秀な人材が流出しにくい環境が整っていることを意味するため、生産性にも優れ、企業価値は高いといえます。
従って、エンゲージメント強化のために従業員へ教育や投資を行うことも、企業価値の向上につながります。

無形資産の把握・活用

企業価値を高めるためには、無形資産を把握し、活用することも重要です。無形資産とは目に見えない資産を指し、技術特許やノウハウといった知的財産や、人的資本などが含まれます。
技術特許を戦略的に活用して他社との差別化を図る、ノウハウを適切に 共有して生産 効率を高めるといったことで、企業価値の向上 が期待できるでしょう。また、従業員への教育や投資など、前述した従業員のエンゲージメントの強化も、無形資産の活用につながります。

8)企業価値を正しく評価して、より良い企業経営を目指そう

企業価値は、社会における企業全体の経済的な価値を表し、資金調達や倒産リスクの低減、M&Aの交渉などでも活用できる重要な指標となります。企業価値を正しく評価するためには、評価の目的を明らかにし、適切な算出方法を用いることが必要です。また、事業価値だけでなく非財務情報の分析や開示も求められるでしょう。

株式会社アバントでは、財務・非財務情報の両方を活用するソリューションの提供を行っており、開示情報、連結決算について日本を代表する数々のお客様へのプロダクト導入・コンサルティングの支援実績もございます。企業価値の評価におけるお困り事やご相談も幅広く承りますので、お気軽にお問い合わせください。

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