投稿日:2024.07.18
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人的資本経営が注目される背景とは?メリットや実施ポイントを解説

企業経営の手法として注目を集めている「人的資本経営」。世界的な潮流を受け、日本でも人的資本の情報開示が求められるようになったこともあり、人的資本経営は今後の企業経営に必須とも考えられています。

しかし、人的資本経営を意識しているものの、その具体的なメリットや手順を正しく把握できていないという方もいるでしょう。
そこで本記事では、人的資本経営とは何なのか、その概要や注目されている理由を解説した上で、行うメリットや取り組む手順などをご紹介します。

1)人的資本経営とは、人材を資本と捉えて企業価値向上へつなげる経営の在り方のこと

人的資本経営とは、人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上へとつなげる経営の在り方です。
人材は企業の経営資源の一つとされることもありますが、人的資本経営では「資源」ではなく「資本」として活用することが求められます。

企業にとって、人材の一人ひとりを育成・活用することは、資本としての人材に投資するということです。人的資本経営に取り組むことによって、人材に代替不可能な価値が生まれ、自社の企業価値の創造につながり、利益として還元されるという好循環を構築することができると考えられています。

2)人的資本経営が注目されている理由

近年、人的資本経営が注目を集めるようになっています。その背景にはどのようなものがあるのかを見ていきましょう。

人材版伊藤レポートの発表

人的資本経営が注目されるようになった背景の一つとして、2020年に経済産業省が公表した「人材版伊藤レポート」が挙げられます。このレポートにおいて、人的資本経営の重要性が強調され、従来の人材戦略との違いなど変革の方向性が示されました。

前述したように、人的資本経営と従来の人材戦略の大きな違いは、人材を「資源」と捉えるのか「資本」と捉えるのかです。

従来の人材戦略では、人材を資源としてコスト管理の対象と見なし、少ない人数でコストを抑えつつ業績を上げる考え方で、終身雇用を前提に人材をいかに囲い込めるかが重要視されてきました。
一方、人的資本経営では、人材を資本と捉え、自社の価値創造、成長発展へつなげるための投資対象と考えます。人的資経営では、経営戦略と人材戦略を紐づけて、人材戦略へ取り組むというものです。人的資本経営では、企業と人材の双方が成長していける関係の構築を目指します。

人材・働き方の多様化が浸透してきた

非正規雇用従業員や外国人従業員の増加などを背景として、日本企業でも多様な人材と働き方が浸透してきました。
従来の画一的な人材管理では通用しないケースも増加しているため、個人の能力や価値を十分に引き出して発揮できる、人的資本経営が求められているのです。

投資家が情報開示を求めるようになった

投資家が投資判断を行うに当たり、人的資本をはじめとする無形資産を判断材料として活用する動きも、人的資本経営が注目を集める理由といえるでしょう。直近の業績や有形資産だけでなく、無形資産も含めた全体の企業価値を見極めたいという投資家が増えつつあるのです。環境・社会・企業統治の3要素を重視するESG投資も広まっており、人的資本は社会に関する取り組みの評価に含まれます。
こうした投資家の動向を受け、企業は情報開示によって人的資本経営に関する取り組みの状況を明らかにすることが求められています。

※ESG投資については下記をご参照ください。
ESG経営とは?注目される背景や導入メリット、ESG投資などを解説

持続可能な社会を目指す取り組みが浸透してきた

世界的に注目を集める、持続可能な社会を目指す「SDGs(持続可能な開発目標)」の取り組みが国内でも浸透してきているのも、人的資本経営が注目される理由の一つです。
SDGsの目標8である「働きがいも経済成長も」においては、全ての人にとって持続可能な経済成長や働きがいのある仕事を推進することが掲げられています(※)。
人材に対する投資は、企業の成長性や将来性を判断するための重要な指標となっているのです。

※SDGsには17の目標と169のターゲットがある。目標8の「働きがいも経済成長も」では、包摂的かつ持続可能な経済成長および全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進することを目標としている。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/statistics/goal8.html

DX推進における経営戦略

DX推進によって、人の手によって行われていた定型業務の一部は、機械やAIに任せることができるようになりました。こうした変化を受けて、人が担うべき業務は「作業」ではなく「付加価値の創造」という考え方も重要視されているのです。
企業が付加価値の創造を持続させていくためには、人的資本経営によって従業員個人の能力を最大限に活用することが必要と考えられています。

3)人的資本経営を行うメリット

人的資本経営を行うことで、企業には具体的にどのようなメリットがあるのでしょうか。
ここでは、主な4つのポイントを見ていきましょう。

投資家からの評価向上

人的資本経営を行うメリットの一つは、投資家から評価が高まることです。
前述のとおり、投資家の関心は財務諸表に表れる有形資産から、人的資本を初めとする無形資産に移りつつあります。実際、企業価値の多くは無形資産から生じており、財務諸表だけで企業価値の全てをカバーすることは困難です。
人的資本経営に積極的に取り組む企業は社会的価値を高く評価され、投資対象と認識されやすくなります。また、人的資本経営の取り組みそのものが株価に影響を及ぼすケースも増えています。

人材投資の最適化を図れる

人的資本経営を推進する中で従業員個人の能力やスキルを明確にできれば、適切な人材配置が可能となります。
従業員一人ひとりの能力が可視化されることによって、得意なことや能力を発揮できる場で働けるようになれば、業績向上や利益拡大にもつながるでしょう。

企業イメージの向上

人的資本経営によって多くの人材から働いてみたいと思われる企業に成長できれば、企業イメージの向上にもつながります。企業イメージが向上すれば、優秀な人材の確保や新たな顧客獲得などにもつながりやすくなるでしょう。
また、企業としての競争力が向上するだけでなく、社内の従業員や株主、投資家からのイメージも向上することが期待できます。

従業員エンゲージメントの向上

人的資本経営で人材への投資に注力することは、従業員へ成長機会を提供するということでもあります。研修やキャリア支援、リスキリングをはじめとした成長の機会を得ることで従業員の業務に対するモチベーションが高まり、自社への帰属意識の向上も期待できるでしょう。
従業員エンゲージメントが向上すれば、定着率向上や離職率の低下にもつながります。

4)人的資本経営で求められる人的資本に関する情報開示

人的資本経営を行う上で、人的資本に関する情報開示は欠かせない取り組みです。世界的には、国際標準化機構(ISO)が公開した「ISO30414」(人的資本に関する情報開⽰のガイドライン)が人的資本の情報開示のルールとして採用されています。
日本においては、開示すべき情報が明確には定められていません。しかし、2023年3月期決算より、上場企業には有価証券報告書において下記の大きく3つの項目の開示が求められています。

サステナビリティに関する考え方および取り組み

有価証券報告書に新設された「サステナビリティに関する考え方および取り組み」の項目において、対象企業は、人的資本に関する情報の記載が求められます。
具体的には、「人材の多様性の確保を含む人材育成の方針」や「社内環境整備の方針および当該方針に関する指標の内容」です。

人的資本・多様性に関する情報

「人的資本・多様性に関する情報」の項目で開示が求められるのは、「女性管理職比率」や「男性の育児休業取得率」「男女間賃金格差」などです。有価証券報告書を提出する場合やその連結子会社がこれらの情報を公表する場合、有価証券報告書等でも記載が必要になります。

コーポレートガバナンスに関する情報

「コーポレートガバナンスに関する情報」の項目としては、「取締役会や指名委員会・報酬委員会等の活動状況(開催頻度、具体的な検討内容、出席状況)」「内部監査の実効性(デュアルレポーティングの有無等)」などについての記載が求められます。

5)人的資本経営のフレームワーク「3P・5Fモデル」とは?

「3P・5Fモデル」とは、前述の人材版伊藤レポートに記された、人的資本経営のために必要とされる3つの視点と5つの共通要素です。それぞれの視点と要素には何が挙げられているのかを見ていきましょう。

【3P・5Fモデル】

引用:経済産業省「持続的な企業価値の向上と人的資本に関する研究会 報告書 ~人材版伊藤レポート~」

3P:人的資本経営に必要な3つの視点

「3P」のPは視点を表すPerspectivesの頭文字です。人的資本経営において人材戦略を検討する際に必要な視点として、下記の3項目が挙げられています。

<人材戦略を検討する上で必要な3つの視点>
・経営戦略と人材戦略の連動
・As is-To beギャップの定量把握
・企業文化への定着

5F:人的資本経営に必要な5つの共通要素

「5F」のFは、要素を表すFactorの頭文字です。5Fは業種を問わずどの企業でも組み込むべきとされる人材戦略の要素として、下記の5項目が挙げられています。

<人材戦略に必要な5つの共通要素>
・動的な人材ポートフォリオ
・知・経験のダイバーシティ&インクルージョン
・リスキル・学び直し
・従業員エンゲージメント
・時間や場所にとらわれない働き方

人材版伊藤レポートでは、上記の3つの視点と5つの共通要素を組み込みつつ、具体的な人材戦略を練ることが重要であるとしています。

6)人的資本経営に取り組むための流れ

人的資本経営に取り組む際、どのように進めていくと良いのでしょうか。ここでは、人的資本経営の手順を、3つのステップに分けて見ていきましょう。

1. 経営戦略と紐づけた人材戦略の策定

まずは、経営戦略と人材戦略を紐づけることが重要です。今までの取り組みと現在の自社の状況を踏まえて、今後目指す企業の在り方とのギャップを把握し、解決・改善すべき課題を洗い出していきます。
自社の課題を踏まえて経営戦略を立てた上で、人材戦略を策定しましょう。

2. 人事施策の検討とKPIの設定

次に、策定した戦略を踏まえて、具体的にどのような人事施策を行っていくかを検討します。目指す企業の在り方に近づけるために、いつまでにどのようなことを実現する必要があるかを明確化しましょう。
企業価値向上のための人的資本経営は、中長期的な取り組みとなります。そのため、進捗や施策の有効性を図るための適切なKPIの設定も大切です。

3. 施策の実行・効果検証

決定した施策を実行し、効果検証を行います。人的資本経営は一度開示したら終了ではなく、継続的な取り組みが必要です。中長期的に経過や推移を分析することで、より将来の予測性も高まり、人的資本経営で求められる在り方に近づけることができます。
効果検証で成果と課題を分析し、再度施策の検討へ戻るというPDCAサイクルを回していきましょう。

7)人的資本経営を実施するポイント

人的資本経営は、企業価値向上のためにも欠かせないものです。人的資本経営を実施する上でつまずかないためには、次の3つのポイントを押さえておきましょう。

情報開示を目的にしない

情報開示を目的として取り組んでしまうと、人的資本経営を推進する本来の目的から逸脱してしまう可能性があります。人材という資本の価値を最大限に引き出し、企業価値向上につなげるために、従業員にとって働きやすい環境を整えることが人的資本経営の本来の目的です。その上で、開示すべき情報を選定していきます。
情報開示はあくまでも手段であるため、なぜ開示するのか、企業価値を向上させるにはどうしたら良いのか、ステークホルダーごとにどのような情報発信を行うべきか、などを念頭に置いて取り組みましょう。

経営戦略と人材戦略の紐づけを徹底する

人材戦略は、経営戦略との擦り合わせを行い、紐づけを徹底することが重要です。中長期的な経営戦略を定めた上で、それを実現するために必要な人材戦略を策定しましょう。
そのためにも、まずは経営戦略が社内で十分に共有されていることを確認し、人材戦略を策定するための土台を敷くことがポイントです。また、戦略の策定・実践を行う上では、人材に関する情報をはじめ、社内のデータを一元管理することも重要になります。データを可視化し、分析することで、適切な経営判断や人材配置などが可能になります。

全社で同じ方向を向いて取り組む

人的資本経営は、経営部門や事業部門、人事部門が一体となって推進することが重要です。人事部などの一部の部門だけでなく全部門が関わり、あらゆる部門が目標を共有し、達成に向けて施策へ取り組んでいく必要があるのです。
そのため、人的資本経営を行う目的を明確にした上で全社的に共有し、自社が目指す姿を全ての従業員が認識することが求められます。

8)人的資本経営で中長期的な企業価値向上を目指そう

社会環境の変化が激しい現代においても企業を成長させていくためには、人的資本経営と向き合い、人材の価値を最大限引き出しながら全社的に経営を進めていくことが求められます。目指すべき自社の姿を明確にした上で人的資本経営に取り組み、PDCAサイクルを通じて中長期的な企業価値の向上を目指していきましょう。

株式会社アバントでは、人材などのデータを活用できるソリューションや、情報開示にまつわるコンサルティングサービスなどを行っています。人的資本経営に関するお困り事やご相談も幅広く承りますので、お気軽にお問い合わせください。

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