今こそ考えたい「企業価値」の本質 ~持続的成長に向け、経営者に求められること~(後編)
※本記事は、日経BPの許可により「日経ビジネス電子版」に2024年7月5日より掲載された広告を再構成したものです。禁無断転載 ©日経BP
ESG経営や人的資本経営では、財務情報やキャッシュだけでなく、人材、ビジョン、知的財産などの非財務情報を踏まえた長期視点での「企業価値」づくりを考えなければいけない。経営者には、従来の常識や成功体験に縛られない柔軟な発想が求められるだろう。新時代の経営の指針になる考え方、そして企業価値向上の具体策とは? 今回、PBR改善に向けたソリューションを共同開発した野村證券とアバントグループ、2社のキーパーソンに聞く。
東証要請への対応を強力に後押しし企業価値向上へのサイクルを回すAVANT Compass
企業価値向上の重要性を喚起し、PBR(株価純資産倍率)を意識した経営の実践を支えるために、アバントが野村證券と共同開発したのが「AVANT Compass」だ。野村證券が持つ資本市場のナレッジを組み込み、誰もが使えるようにすることで、企業経営者のファイナンシャルリテラシーを補完する。両社がパートナーシップを組んだ背景や目指す提供価値を紹介する。
東証要請を機に、新しいものさしを意識した成長戦略が不可欠に
2023年3月の東証要請によれば、PBR(株価純資産倍率)1倍割れは「成長性が投資家から評価されていないことを示唆する目安」である。もちろん財務の健全性は大前提で、ROE(自己資本利益率)向上には継続して取り組む必要があるが、成長性を市場から評価されるにはPER(株価収益率)を高めて「PBR1倍以上」を実現することが不可欠だ。
「短期的には自社株買いでROEを高められても、企業の成長戦略には中長期の視点が求められます」と野村證券の太田 洋子氏は言う。研究開発や人材への投資など、非財務を含めた広範な領域で、具体的な計画に基づいた取り組みを進めることが市場の期待、つまりPBR向上に向けて必須になるという。
太田 洋子氏
慶應義塾大学経済学部卒業後、NRI入社。機関投資家向け株式運用コンサルティングを経て、1998年より金融工学をベースとしたソリューションの提供およびコンサルティング活動に従事、現在に至る。直近は非財務情報の可視化をテーマに、人的資本やインパクトの企業価値との関係分析に取り組んでいる。金融庁「ESG評価・データ提供機関等に係る専門分科会」「インパクト投資等に関する検討会」などに委員として参加。
この方向性のもと、市場のルールも変わりつつある。象徴的なのが、日本証券取引所グループが2023年7月に創設した「JPXプライム150指数」だ。資本収益性と市場評価の2つを基準に、“稼ぐ力”を持つ企業を選定する。「財務諸表以外のものさしが登場したことで、これを加味した成長戦略を練らなくてはいけなくなっています」とアバントグループの中山 立氏は述べる。
PBR1倍割れが続けば、市場から退場させられる可能性もある。とはいえ何を目指し、何から始めればよいのか分からずに戸惑う企業は多いだろう。実際、東証要請以降、野村證券には企業からの問い合わせが殺到しているという。
「個別対応にはどうしても限界があります。そこで当社は、これまでお客様に提供していた企業価値評価などのナレッジを集約して標準化し、デジタルサービス化することを検討しました」(太田氏)。そうすることで、より多くの企業経営者の戦略立案を支援することが可能になる。この志を同じくするソリューションパートナーとして、手を組んだのがアバントグループである。
「財務情報と非財務情報の統合管理」というビジョンを共有
アバントグループは、「経営情報の大衆化」を創業以来のミッションとするソリューションベンダーだ。連結会計・連結決算を担う「DivaSystem LCA」、経営情報を可視化し、取締役会の変革を促す「TRINITY BOARD」など、傘下のグループ企業が複数のソリューションを市場に提供している。
「TRINITY BOARDの開発過程で様々な有識者とお会いしてアドバイスをいただきました。そんな中、太田さんと出会ったのです」と中山氏。アバントグループは、自社ソリューションとして、財務情報と非財務情報を統合管理できるプラットフォームである「AVANT Cruise」を提供し、これらの情報を企業価値向上につなげるべく取り組んでいる。野村證券はそのことに強く共感したという。
こうして両社は企業価値、およびPBRの向上を支援するソリューションの開発に着手した。野村證券はベースとなる既存コンテンツと業務の中で培ってきたナレッジを、アバントグループはソフトウエア開発※1の技術と、クラウドサービス提供の知見を提供する。双方の強みと実績を生かした戦略的コラボレーションといえるだろう。
ただ、当初の野村證券社内には共同開発に反対する声もあった。企業の価値評価やリスク分析のノウハウは野村證券の知的財産であり、それを簡単に社外に出していいのか――。確かに、この意見はもっともだ。
「新しい挑戦に慎重になるのは分かります。しかし、日本企業の未来を切り開くには、今こそ永年提供してきた基礎コンテンツを幅広く提供するべきだと私は考えました。すべてのコンテンツを外に出すわけではないこと、出すコンテンツの中身は十分に精査することなどを説明し、最終的には理解を得ることができました」と太田氏は言う。その際は、パートナーであるアバントグループがかねてより経営情報を扱うクラウドサービスを提供しており、セキュリティーや運用の知見が豊富なこと、プライム上場企業である信用力なども大きな後押しになったという。
※1 開発はグループ企業の1社であるアバントが担当
将来の計画値を入力するだけで自社の企業価値を算出できる
両社が共同開発したのが企業価値分析クラウド「AVANT Compass」である(図)。
東証要請を踏まえて設計された分析コンテンツにより、将来の計画を入力するだけで企業価値を可視化できる。現状の可視化はもちろん、同業他社比較や自社の時系列比較も可能だ。「また計画策定に当たっては、『標準』『強気』『弱気』など複数のシナリオを登録可能であり、それぞれのシナリオで自社のPBRや各種指標、理論株価がどう変わるかを比較して検討できます。ここで見られるグラフやチャートを野村證券に全面監修いただいたのがAVANT Compassの最大の特長です。まさに“秘伝のノウハウ“が標準で組み込まれているわけです」と中山氏は説明する。
中山 立氏
2000年にディーバ(現 アバントグループ)入社。開発責任者として連結会計システム「DivaSystem LCA」の開発を牽引。2014年より、グループ経営管理室長として経営管理の高度化、IR、市場変更など、アバントグループ自体の企業価値向上に向けた活動に関与。2022年10月より再びプロダクト開発の最前線に復帰。公認会計士。
さらにAVANT Compassには、全上場企業の過去の財務情報や株価情報に加え、野村證券のアナリストの業績予想値が標準で組み込まれている※2。資本市場の専門家の予想値を、誰でもすぐ利用できる。これによりPERを算出し、それをベンチマークとした目標設定が可能となる。
「同様の狙いでつくられたサービスはほかにもありますが、野村證券のアナリスト予想値を用いて資本市場の目線で目標を設定できるのはAVANT Compassのみ。ここが大きな差別化ポイントであり強みだと考えています。企業価値向上に向けた投資家との対話にも有効です」と太田氏は強調する。
同じく中山氏も述べる。「“PBR1倍”は旗印としては非常に分かりやすい一方で、本来目標とすべき水準は業種などによっても異なり、もっと高い水準の場合が多いと思われます。予想値があるおかげで、業界の将来予想を継続的に追いかけながら、適切な目標と計画を設定できるようになります」。
使いやすさも徹底的に考えられている。詳細な用語解説集が付属していることはその一例だ。それも単なる解説書ではなく、野村證券が以前から提供してきた専門家向けのベストセラードキュメントを、ファイナンス初心者向けにリライトしたものだという。「サービスをリリースすることがゴールではありません。1人でも多くの経営者に使ってもらいたい、ファイナンスを理解してもらいたいという強い思いで、こうしたドキュメントも提供することにしました」と太田氏は紹介する。
「このような質の高いドキュメントが付属するため、ファイナンスの知識に不安を持つ経営者やそれを支える役割の方々にとってはAVANT Compassが良質な支援ツールになるはずです。ファイナンスが専門領域ではない方も、まずは使ってみていただきたいですね」と中山氏は続ける。
※2 アナリスト予想の対象となっている企業のみ
可視化、分析、アクションのサイクルを継続的に回せるようにする
東証要請では、現状分析から計画の策定、開示、投資家との対話を含むアクションを、最低年1回は行うべきだと提示している。仮に1度限りの開示資料作成なら、エクセルを使った力業のデータ集計でも対応できるだろう。しかし、今後求められるのは継続的な企業価値向上である。「これはシステムを使わなければ難しいと思います。可視化、分析からアクションまでのサイクルを回し続けることで、東証要請に沿った企業価値向上の取り組みが可能になります」と中山氏は話す。
そのためにAVANT Compassも継続的に進化させていく。複数の事業を持つ企業に向けた事業別ポートフォリオの分析機能を追加することはその一例だ。さらに、現在は国内のみとなっている同業他社比較機能も、ゆくゆくは海外企業を対象に加える予定だという。
「多くの日本企業が統合報告書で、財務・非財務の情報を合わせた美しい価値創造ストーリーを描いています。ただ現実には、2つの情報が統合されていないケースが多々あり、価値向上を具体的に示すことは難しいのが実情です。この状況を打開し、財務情報と非財務情報の両方を可視化・分析することで、より高い企業価値をつくる。それが企業経営者にとって当たり前になる世界を目指したいと思います」と太田氏は最後に語った。
※本記事は、日経BPの許可により「日経ビジネス電子版」に2024年7月5日より掲載された広告を再構成したものです。禁無断転載 ©日経BP