ERPと経営管理システムの効果的な連携!データドリブン経営を実現させる方法
ビジネス環境の変化や顧客ニーズの多様化に対応するため、データドリブン経営の重要性は日々高まっています。企業が競争力を維持し、持続的な成長を実現するためには、適切なデータを収集し、それらを効果的に分析・活用することが不可欠です。
しかし、現実的には次のような多くの課題が立ちはだかっています。
「データの収集や加工、分析には膨大な時間と労力がかかる」
「情報の鮮度や精度に不安が残る」
「ERPシステムの柔軟性が不足している」
「連結会社間や部門間のデータ連携が難しい」
こうした課題の解決を図るために、ERPシステムの利点を活かしつつ、さらに一歩進んだデータ収集・活用を実現する方法を紹介します。
ERPのみによる経営管理の限界
ERPシステムは企業の基幹業務を統合し、業務効率を大幅に向上させる強力な基盤です。近年、多くの企業がデータ管理の課題に対応するため、ERPの導入やアップグレードを積極的に進めています。
しかし、ERPは主に業務遂行のためのシステムであるため、経営管理に必要な柔軟なデータ分析やシミュレーションには制約があります。なぜなら、ERPのデータモデルは業務プロセスに最適化されているため、経営管理の視点から多角的な分析、非財務情報との統合、高度なシミュレーション機能の実装などには限界があるためです。
そこで、多くの企業がERPシステムの下流に、データ分析を実現する基盤として経営管理システムを導入しています。実際、当社の経営管理ソリューションを導入している企業の大半が、基幹システムとしてERPを併用しています。この結果からも、多くの企業がERPは重要なシステムだと認識しつつ、経営データの収集に課題を感じていることがわかります。
データドリブン経営に必要なデータ収集の課題
データドリブン経営を実現するには、ERPの導入だけでは不十分であり、実際に多くの企業が解決できないいくつかの課題に直面しています。
データのサイロ化における3つの課題
前提として多くの企業では、部門ごとに異なるシステムが導入された結果、部門や組織をまたいだシステム連携やデータ共有を行うことができず分断した管理が行われています。データが活用できない、業務効率の低下、意思決定の遅れなど諸問題が発生し「サイロ化」に陥るケースも多くなっています。
営業部門はCRMシステム、生産部門は生産管理システム、財務部門は会計システムというように、各部門が独自のシステムを使用しているケースが一般的です。
このようなサイロ化された環境では、以下のような3つの課題が発生します。
1.データの整合性の欠如:各システムで管理されているデータの定義や粒度が異なるため、全社的な視点でのデータ統合・分析が困難
2.データ収集の非効率性:必要なデータを集めるために、複数のシステムからデータを抽出し、手作業で統合する必要があり、多大な時間と労力を要する
3.リアルタイム分析の困難:各システムのデータ更新タイミングが異なるため、リアルタイムでの全社的な状況把握が難しくなる
ERPによるデータ統合の試み
ERPシステムの導入は、データのサイロ化問題に対処するための一般的なアプローチです。多くの企業がERPを導入することで、部門間のデータ統合を図り、全社的な情報管理を目指しています。
ERPは、財務、人事、製造、販売などの主要な業務プロセスを一つのシステムに統合することで、データの一元管理を可能にします。
統一されたデータ形式やプロセスにより、業務の標準化や効率化も図れるため、多くの企業がERPの導入を進めているのです。
データ統合におけるERPの3つの課題
しかしERPを導入しても、データ統合の問題が完全に解決するわけではありません。
ERP導入後も、次の3項目が立ちはだかる可能性があるでしょう。
1.情報の鮮度が低い:経営層に最新情報を提供するまでに時間がかかり、意思決定のタイミングを逃す可能性がある
2.分析結果の精度が不安:データの加工や集計を手作業で行うため、人為的ミスが起こりやすく分析結果の信頼性に疑問が残る
3.作業負荷が高い:システムの違いによるデータ変換作業や、複数の部門からの要求へ対応するために多くの時間を要する
ERPと経営管理システムの共存アプローチ
こうしたデータ収集や管理の煩雑さを解決し、真のデータドリブン経営を実現するには、ERPを補完する経営管理システムの導入が有効です。
ERPシステムの重要性は変わりませんが、経営管理の高度化視点においては、限界があることも明らかになってきました。そこで注目されているのが、ERPと経営管理システムを効果的に組み合わせる「共存アプローチ」です。
両システムの長所を活かしながら、より柔軟で高度な経営管理を実現するメリットを以下で解説します。
ERPを補完する経営管理システムの特徴
ERPの課題を補完し、より効果的な経営管理を実現するために、経営管理に特化したシステムが必要となります。経営管理システムの主な特徴は以下の通りです。
・柔軟なデータモデル:企業固有の管理会計構造や分析軸を柔軟に定義が可能
・高度な分析機能:多次元分析、シミュレーション、予測分析など、経営判断に必要な高度な分析機能を提供
・情報の即時性:リアルタイムでの情報共有による経営および部門間連携の強化
・レポーティングの柔軟性:経営層のニーズに応じた柔軟なレポートやダッシュボードを容易に作成
・外部データとの統合:市場データや競合情報など、ERPで管理されていない外部データとの統合が容易
経営管理システムとは、文字通り経営管理に特化しているため経営判断に必要な情報を可視化できます。経営に関する情報データの収集や加工に優れており、将来的な数値予測、中長期的な経営戦略の立案にも役立ちます。
複数の基幹システムを1つに統合するERPとは、根本的な目的が異なるものです。
ERPと経営管理システムの連携によるメリット
特徴の異なるERPと経営管理システムを効果的に連携させることで、以下のようなメリットが得られます。
1.データの一貫性と精度の向上:ERPで管理される取引データと経営管理システムで扱う計画データや非財務データを連携させることで、より一貫性のある正確なデータ分析ができる
2.意思決定の迅速化:リアルタイムのERPデータと高度な分析機能を組み合わせることで、より迅速かつ的確な意思決定に繋がる
3.柔軟な分析と計画立案:ERPのデータを基礎としつつ、経営管理システムの柔軟性を活かした多様な分析や計画立案が可能になる
4.全社的な視点の獲得:部門横断的なデータ分析や、財務・非財務情報の統合的な分析から、全社的な視点での経営管理が実現できる
効果的なデータ収集・活用のポイント
ERPと経営管理システムを連携できたら、次に適切な運用ルールを作る必要があります。
できるだけ無駄を減らしつつ、効果的なデータ収集を行い、その分析結果を経営に活用するためのポイントを解説します。
適切な管理単位の設定
経営判断に必要な粒度でデータを管理する仕組みの整備が重要です。具体的には以下のような点に注意が必要です。
・事業別、製品別、顧客別など経営管理に必要な軸を定義する
・ERPのデータ粒度と、経営管理に必要な粒度のギャップを把握し適切な集計・分解の方法を設計する
・将来的な分析ニーズの変化も考慮し、柔軟に管理単位を変更できるようにする
配賦ルールの最適化
適切な間接費の配賦は経営管理において重要ですが、複雑な配賦ルールを作ると維持管理が難しくなります。
以下のような点に注意してシンプルかつ合理的な配賦方法を選択する必要があります。
・目的を明確にし、真に必要な配賦のみを実施する
・配賦基準は可能な限りシンプルなものを選択し、定期的に見直す
・配賦計算のプロセスを自動化し、人的ミスを減らすとともに、効率化を図る
データの可視化と分析環境の整備
収集したデータを経営陣や経理の現場が容易に活用できるよう、適切な可視化と分析環境の整備も必要です。
・経営ダッシュボードの構築:重要な経営指標をリアルタイムで可視化し、直感的に把握できるダッシュボードを構築する
・セルフサービス型BIツールの導入:個々の社員が必要に応じて自由な分析を可能にするBIツールを導入し、データ活用の頻度を増やし、裾野を広げる
・データ品質の確保:可視化・分析の基礎となるデータの品質を確保するためのプロセスを整備する
データドリブン経営実現に向けた取り組み事例
最後に、ERPと経営管理システムを効果的に連携させ、データドリブン経営を実現した企業の事例を2つ紹介します。
多軸分析の実現
製造業大手のある企業では、ERPと経営管理システムを連携させて、製品別、顧客別、地域別の多軸分析を実現しました。
この企業では、ERPの活用だけでは製品・顧客・地域を横断した詳細な採算分析が困難でしたが、ERPから抽出した取引データを経営管理システムに取り込み、同時に配賦基準を見直すことで、柔軟な分析軸の設定と高度な配賦計算の実現に成功しました。
この結果、より詳細な採算管理が可能となり、不採算製品や顧客の特定、さらには地域別の戦略立案を容易に行えることができました。
経営判断のスピードと精度が向上し、全体的な収益性の改善にもつながり、加えて、経営管理システムの導入により配賦マスタの自動生成が可能となりました。ERPの制約から解放されることで、より柔軟な経営管理が実現した事例です。
経営ダッシュボードの活用
続いて、ある中堅のサービス企業が、ERPデータと外部データを統合した経営ダッシュボードを導入し、データドリブンな意思決定プロセスを確立した事例を紹介します。
この企業は、役員会での議論が定性的な情報に偏りがちで、客観的なデータに基づく意思決定が困難という課題を抱えていました。
そのため、ERPデータ、CRMデータ、市場データなどを統合し、リアルタイムの経営ダッシュボードを構築しました。さらに役員会ではタブレット端末を使用してダッシュボードを参照しながら議論を行うようなスタイルに変革しました。
結果として、より客観的かつ迅速な意思決定が可能になり、市場変化への対応力が大幅に向上。部門間での情報共有が促進され、全社的な課題認識の統一が図られるようになったのです。
このように、データを中心とした経営スタイルへの転換により、企業全体の意思決定プロセスが大きく改善されました。
まとめ
データドリブン経営の実現には、ERPと経営管理システムの効果的な連携が鍵となります。
適切なシステム選択、最適なデータモデル構築、合理的な配賦ルール設計、使いやすい可視化・分析環境の整備のほか、データ品質の確保と継続的な改善プロセスの確立も欠かせません。これらの取り組みを通じて、企業は迅速かつ正確な意思決定を行い、競争力を高めることができます。
データドリブン経営への移行は、時間と労力を要する挑戦ですが、その成果は企業の将来を大きく左右する可能性を秘めています。
本記事で紹介したアプローチを参考に、ERP導入に依存しない自社の状況に合わせた最適な方法を見出し、データの力を最大限に活用した経営を目指してください。
株式会社アバントは、豊富な経験と専門知識を活かし、お客様のデータドリブン経営の実現に向けた包括的なサポートを提供いたします。
ERPと経営管理システムの効果的な連携から、データの収集・分析・活用まで、お客様の課題に応じたソリューションをご提案いたします。データを活用した経営の高度化に向けて、ぜひご相談ください。
【本記事の監修者】
株式会社アバント
グループ経営管理事業部 ビジネスマネジメント部 中澤 良平
<経歴>
大手Sier~外資系コンサルファームを経て現職。製造業を中心とした基幹システムから経営管理・管理会計システムの導入が専門。主な役割は各種提案、構想整理コンサル、プロジェクト推進責任者など。多数のお客様にて、構想整理から要件定義~構築、本稼働後の保守支援含め一気通貫で対応。