【ビジネスアナリティクスの専門家に聞く】データドリブン経営の重要性とは?

時代の目まぐるしい変化に対応すべく、近年注目を集めているのがデータドリブン経営です。データの分析結果を基に意思決定を行うため、経営陣の経験値や勘に左右されることなく、客観的な判断ができるようになります。では、データドリブン経営はなぜ重要なのでしょうか。
本記事では、データドリブン経営を世の中でいち早く提唱し、ビジネスアナリティクスの専門家として知られる前田英志(まえだ・ひでし)氏にお話を伺いました。
※データドリブンについては下記をご参照ください。
データドリブンとは?注目の背景やメリット、導入の手順を解説
前田 英志氏

多摩大学大学院MBA 客員教授、フィンファイ株式会社 代表取締役社長
東京大学大学院修了(機械工学)、一橋大学国際企業戦略科修了(MBA)。専門は技術戦略とビジネスアナリティクス。
日本アイ・ビー・エムの戦略コンサルティンググループで、データ戦略策定やデータ活用型組織変革などを通じ、企業変革を支援。2023年、地球上の全ての人の経済的自立を目指し、フィンファイ株式会社を立ち上げる。
著書に『IBMを強くした「アナリティクス」 ビッグデータ31の実践例』(共著、日経BP社)。
データドリブン経営が重要な理由
インターネットやスマートフォンをはじめとしたモバイルデバイスの普及により、オンライン・オフラインの両方で購買行動が行われるようになりました。
例えば、公式サイトで商品を閲覧した後に実店舗で購入したり、オンラインで価格やスペックを比較してから購入検討したりするなど、消費者は多様な情報にアクセスできるようになり、選択肢はますます広がっています。また、個性やライフスタイルに合わせた商品やサービスを求め、消費者の価値観も多様化しています。
こうした需要を的確に捉え、ビジネスに反映させていくためには、従来の経験に頼るだけでは難しく、データドリブン経営が重要です。
さらに前田氏は、顧客自身がデータに基づく客観的な意思決定を好むように変化してきていると言います。
「これまでは、明治から始まった均質化の時代が150年ぐらい続いてきたと考えられていました。偏差値を共通の物差しとして、いい大学に入り、いい会社に入り、会社に入った後は『ライスワーク』、いわゆる食べていくための仕事が一生続くという価値観が強かったといえます。
しかし、現在は個性の時代になりつつあり、Z世代は一生同じ会社で働くとは考えておらず、仕事は自分自身のやりたいことである『ライフワーク』を追求したいという価値観に変化しているのです。
彼らは、お金のような客観的なものに対して感度が高く、論理的な議論をする傾向があります。なぜなら、自分のやりたいことのために客観的なデータに基づく論理的な議論ができないと、自身の考えを周囲に納得してもらえないと分かっているからです。反対に、経験や勘に基づいた意見を間に受けない傾向があるといえるでしょう。
こうした傾向に合わせられない企業は、取り残されてしまうかもしれません」
データドリブン経営で期待できる効果とは?
では、企業の視点から見てみると、データドリブン経営はどのような意義があり、どのような効果を期待できるのでしょうか。
一つは、データドリブン経営によって、事業を「投資」と考えられるようになるということです。
「データドリブン経営によって、やってみないと分からないという状態ではなく、投資に変わります。データドリブン経営を行うことで、成功と失敗の確率を計算できるようになり、失敗しても学習することで次に活かし、意思決定の質をどんどん高めることができるのです。事業の成功確率も上がっていくでしょう。データを見れば、長い経験のある役員と同じ土俵で会話ができるようになります」
また、データドリブン経営によって、ファーストペンギンになれるという効果もあります。
ファーストペンギンとは、リスクを恐れずに最初にチャレンジすることを指しますが、データがあれば無謀なチャレンジをしなくても済むようになるでしょう。あらかじめ調査してデータの裏付けを持っていれば、リスクが少ない状況でチャレンジできるようになります。
なお、前田氏は、データドリブン経営には社内の風通しを良くし、建設的な議論を促進する効果もあると言います。
「データドリブン経営は冷たいというイメージがあるかもしれませんが、組織は健全になります。データや情報を隠し、権力の強い人が全て決めてしまうという、いわゆる社内政治的な動きがなくなり、社内の情報が可視化され、年齢問わず対等な議論ができるのです。
すると、風通しが良くなり、従業員間の距離が縮まるという効果も見込めます。成績が数値化され、良し悪しが明確に判断されるため、成果がなく声の大きい人が評価されるといった状態もなくなり、評価の透明性と公平性が確保されます」
データドリブン経営を実践するステップ
企業にとってデータドリブン経営に取り組む意義や効果はさまざまありますが、取り組むにあたっては実践するステップを理解しておくといいでしょう。
前田氏は、4つのステップで進めていくことをすすめています。
ステップ1:全体像を整理する
まずは、データドリブン経営の全体像を理解することが大切です。全体像は、次の4つの領域を理解するといいでしょう。
<データドリブン経営の4つの領域>
・データを溜めるプラットフォームと、データを収集・蓄積・活用する体制(データガバナンス)
・データを活用することで得たい価値
・データドリブンを推進する組織
・データサイエンティストの確保・育成およびマネージャーのリテラシー教育
しかし、前田氏によると、データドリブン経営の全体像を理解せずに始めてしまう企業もよく見られるといいます。データサイエンティストを育てたり、いきなりデータ分析を始めたりしてしまうのではなく、全体像を理解しなければなりません。
「まず、データをしっかり収集・蓄積できるプラットフォームを作り、それを活用するための体制を整えることです。データガバナンスがしっかりしていないと大きなリスクとなります。さらに、データ活用で得たい価値を作っていくことが大切。そして、推進するような組織や役職が必要なので、CAO(チーフアナリティクスオフィサー)やCDO(チーフデータオフィサー)などを整備する。
データドリブンという新しい文化を入れていくには、チェンジマネジメントが必要になってくるので、企業全体をアジャイルに変えていく取り組みも、その組織整備と同時に行うといいでしょう。
最後に、データ分析ができるデータサイエンティストを育てるか、外部から採用するかをしないといけません。また、データサイエンティストだけを確保してもうまくいかないので、役員やマネージャーのリテラシー教育が必要になります」
ただし、日本企業はこれらを主導する部門がバラバラになっていることが多いと前田氏は指摘します。
人材育成は人事で、データのプラットフォームはシステムの部署が担当、価値創造は経営戦略がリードするといった状況だと、組織の壁を超えたコラボレーションはうまくいかなくなります。この4領域について理解して、経営陣がリードしてくことが大切です。
ステップ2:ぶれない目標を決める
全体像を整理したら目標を決めていきます。この目標はぶれないようにすることが大切で、企業としてありたい姿だけでなく、データドリブン経営の実現を通じ、企業として何を得たいのかまで具体化すると良いでしょう。このとき、経営陣による徹底した議論を通じて、解像度を上げるプロセスが必要となります。
「我が社はデータドリブン経営でどのような姿を求めるのかということを、経営陣でしっかり考えることが大切。データドリブン経営ができるようになった時には、どのようなことができるようになるのかということを、抽象的な話ではなく具体的に経営陣が議論しないといけません。
経営者の皆さんは、やりたいことを必ず持っているはずです。そういったやりたいことは、今のテクノロジーの技術を用いると大抵のことは実践できます。そういった議論を徹底すると、目標の解像度が上がってくるのです」
ステップ3:道筋を明確にする
目標が決まったら、そこに到達するための道筋を明確にします。
データドリブン経営に取り組むことで、さまざまな変化や問題が出てくるため、どのような順番で進めていけばいいか、そのストーリーを作ることが大切です。
「データドリブン経営を実践する際、目標に向かってどのように進んでいくかというストーリーをしっかり作ってください。
実行するとなると、いいことばかり起こるわけではありません。悪いことも含めてどのようなことが起こるかを予測しましょう。ストーリーを作れれば95%くらい達成したようなものです」
ステップ4:実行する
道筋を明確にしたら、後は実行するだけです。ただし、実行するにあたっては、必ず経営層が主導すべきだと前田氏は強調します。
どれだけデータドリブンな仕組みを構築しても、最終的な意思決定者がKKD(経験・勘・度胸)で意思決定していては意味がありません。特に、社長を必ず巻き込むか、チーフアナリティクスオフィサー(CAO)やチーフデータオフィサー(CDO)のような責任者を据え、トップダウンでデータドリブン経営を推進していく必要があります。
「実行するだけ、と言えば簡単ですが、実行の初期段階でうまくいかず、深い谷に落ちてしまうことがあります。
ただし、ストーリーを最初から作っておけば、もともとそういったストーリーだということがわかっているので、『想定していた谷が来ただけだから、これから上がっていけばいい』と考えることができます。
ストーリーを作っていないと、『やっぱり自社ではできなかった』『データが全然集まらなかった』といった声が出てきて、そこで諦めることになってしまうのです。社長を含めた経営陣が、これからまた上がっていけることを理解したうえで、みんなを引っ張っていくことが大切です」
データドリブン経営の成功事例
最後に、データドリブン経営を実現した事例について、前田氏に教えていただきました。
ある製造小売業の企業では、各店舗と製造現場で共通言語を持てずに、コミュニケーションの齟齬が生まれていることに課題を持っていました。例えば「売上」という言葉の定義が異なっているといった状況です。
そこで、データを共通言語として活用することにしたものの、社内にデータサイエンティストはいない状況。さらに、データもExcel形式で個人のローカル環境に保管されており、共有できない状態だったといいます。
「このような状況で、3年後までに業界で最もデータを武器にしている企業になる、というゴールを決めたことが大きな成功要因だったと思います。加えて、最初の3カ月間で、社長・取締役・執行役員・部長合わせて50人で、データを使ってどのような価値を創出できるのか議論をしました。そこから経営視点で優先順位をつけて、データプラットフォームを作っていったのです。
さらに、社内で10人の人材を選抜して、データサイエンティストも育成しました。部課長300人に対しても、データ思考力や統計に関する教育をしたのです。取り組みを始めると1年で売上がV字回復し、その後も継続して上昇していきました。
最初のゴール設定を徹底して議論したことで、隣の部署が何をやっているのかも分かるようになったと役員の方が話していました。これが、データドリブン経営の本質だと思います。組織の縦割りを壊して問題を解決すると、大きな成果が出るようになるのです」
データドリブン経営で風通しが良く、建設的な議論ができる環境を作る
データドリブン経営は、決して冷たいものではありません。むしろ、社内の情報が可視化されることで、年齢や部署を問わず建設的な議論ができ、風通しが良くなることで、成果も挙げられるようになるのです。
企業を取り巻く環境変化が激しい現代において、データドリブン経営の重要性はますます高まると考えられます。企業の中長期的な成長のためにも、データドリブン経営に取り組んでみてはいかがでしょうか。
なお、社内に点在するデータを集約する上では、「AVANT Cruise」の導入・活用もおすすめです。収集したデータを価値ある情報に加工し、経営管理に役立てることができます。
※「AVANT Cruise」については下記をご参照ください。
AVANT Cruise

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