投稿日:2025.03.26
投稿日:2025.03.26

NEW

グループ経営管理

ROIC経営・グループ管理会計

AVANT Cruise

ノウハウ

現場に浸透するROIC経営実践ガイド 【第3回】グループ事業におけるPL|ROICに重要な外部売上高の認識と管理方法

シリーズでROIC経営を成功に導くための実践的な方法を解説しています。シリーズ第3回となる本記事では、ROICを構成する重要な要素である売上高に着目し、グループ経営における効果的な管理方法について考察します。

事業ポートフォリオの最適化やグローバル化が進む現代において、売上高の適切な把握と管理ができることは、企業の持続的な成長と企業価値向上の鍵を握っています。

ROICにおける売上高の重要性

シリーズ第1回目のコラム現場に浸透するROIC経営実践ガイド 【第1回】コーポレートと事業部における認識ギャップ解消へのアプローチでも詳しくご紹介しましたが、ROICは投下資本利益率を示す指標であり、「売上高利益率」「投下資本回転率」の2つの要素から構成されます。

この中で特に重要なのが、利益の源泉となる売上高であり、計算式では分子に相当します。売上高は企業の正常収益力を端的に表す最重要項目であり、ROICを用いた経営管理を実践するうえで、その把握と管理は極めて重要なポイントと言えます。

科目構造からみる売上高の基本

売上高は企業の正常収益力を表す指標ですが、たとえば経営者と事業責任者のように、チェックする人の責任範囲が異なると、売上高に対する視点も変わります。

左右の表はいずれも、売上高を集計し、最終的な営業利益を把握しています。ただし経営者と事業責任者ではそのアプローチが異なります。

経営者がグループ会社全体での外部売上高の最大化を重視し、事業ポートフォリオ全体の最適化を目指します。これに対して、事業責任者は担当事業における売上目標の達成を最優先するため、右表のように内部取引(内販)を含めた売上高の管理も必要となります。

このような異なる視点を持つ両者が認識を共有するために、ROICの活用が有効です。ROICを通じて、事業部門の個別成果とグループ全体の価値創造を結びつけ、実効性の高い経営管理を実現することができるのです。

売上高の管理における3つの視点

売上高管理においては、次の3つの視点を持つことが重要です。これにより、ROIC経営における実効性の高い売上高管理が実現できます。

1.内外販構造における外部売上高

グループ経営における売上高は以下の2つに分類されます。
・外部売上高(外販)
・内部売上高(内販)

ROIC経営においては、「外部売上高の最大化」が重要です。内部売上高はグループ内取引として連結消去される要素であり、それを追求しても経営的にはあまり意味がありません。
単体企業の責任者は売上高の最大化に注力しがちです。しかし、ROICの観点からは「罠」とも言える、不必要な内部売上高の拡大を目指してしまう可能性があることには注意が必要です。

2.外部売上高の科目詳細

外部売上高は、より詳細な科目構造で把握することが重要です。
制度連結における外部売上高は純売上高(ネット)で集約されますが、実際には以下の要素で構成されています。

・総売上高(グロス)
・売上控除値引・売上割戻

管理会計上は、基礎的な正常収益力である総売上高(グロス)を評価するため、これらの要素を詳細に可視化してモニタリングすることが、より重要な考え方となります。

3.売上高データを多軸的に把握

外部売上高は、以下の4つの軸で多面的に把握するとよいでしょう。
・組織(会社構造)
・科目(PL科目)
・事業(PLの事業セグメント)
・詳細科目(仕向地・製品)

このとき、各軸のデータ粒度が適切に設計されているかが重要なポイントです。多角的な視点でのデータ設計により、より実効性の高い売上高管理が実現できます。

考慮要素(軸の要素) データ粒度の検討ポイント
組織軸(会社構造) 各社報告値と連結消去、その結果としての連結合算結果になるか?
勘定科目軸(PL科目) 内販、外販科目の収集体系ができているか?
PLの事業セグメント定義 会社PL→事業PLのデータ構造になるブレイクダウンができるか?
詳細科目軸 仕向地概念、製品概念での明細軸での売上分解ができるか?

実務における売上高管理の実例

グループ経営におけるROIC管理を実践している企業では、売上高管理において複数の視点からの階層的な管理、また管理の実効性を高めるためのさまざまな工夫を行っています。
ポイントとなるのは、データ構造の適切な設計と外部売上高に着目した管理です。
ある企業グループのPLのフォーマット事例を基に、実務において特に重要となる2つのポイントを説明します。

1.データ構造の整備

会社PLから事業PL、事業PLから仕向地別外販という流れで、データを階層的に構造化することで、効果的な経営管理のPDCAサイクルを実現できます。
特に重要なのは、これらの階層間で外部売上高の整合性を保つことです。
たとえば、会社PLにおける外部売上高80の場合には、事業PLの外販合計も80となり、さらに事業別仕向地外販の合計値も、40+40=80と一致するような構造設計が必要です。

この一貫した数値管理により、各階層での適切な意思決定と管理が可能となります。

2.外部売上高を重視した管理体制

ROICを最大化するためには、単に売上高を追うのではなく、外部売上高(外販)に着目した管理が重要です。
会社PLと事業PLの両方において内外販を明確に区分し、外部売上高の最大化を目指すことで、実質的な収益力の向上につながるでしょう。
さらに事業別PLにおいても内外販を明確に区分することで、事業単位での収益性の実態把握が可能となります。
また、この外部売上高を仕向地別に展開することで、応用的な収益性の分析も可能となります。このように、制度連結上の要件を満たしながら、管理会計としての実効性の高い経営管理を実現することができるのです。

まとめ

ROIC経営を効果的に実践するためには、PLの「売上高」管理における科目設計や構造を適切に理解し、設計することが重要です。特に、連結消去後の外販に着目したPDCAモニタリングの仕組みづくりが、経営管理の実効性を高める鍵となります。

また、データを階層的に構造化し、会社PL→事業PL→仕向地別外販という流れで管理することで、より効果的な経営管理のPDCAを実現することができるでしょう。

本記事で解説したとおり、体系的なアプローチにより、企業価値の向上に向けたROIC経営の実践が可能となるのです。

次回はPL科目体系の主な論点に着目した「事業別PL科目の管理体系」について解説します。

企業価値向上のためのグループ経営管理システム
AVANT Cruise

グループ経営管理において必要な財務・非財務情報を収集・統合し、多軸分析を行えるクラウドサービスです。1,200社超の支援実績から生み出された経営管理機能を持ち、データを収集する入力画面や、 90 種類の経営会議レポート・分析帳票などを標準搭載。設定のみで利用できます。

メールマガジン

最新セミナーやダウンロード資料は、メルマガでお知らせしています