投稿日:2025.04.03
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グループ経営管理

S&OP(SCM+管理会計)

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ノウハウ

インタビュー

S&OPの第一人者に聞く(後編)~導入のファーストステップと今後の動向~

需要だけでなく供給も不確実性が増す中、企業が中長期的にリスクを管理し、持続可能な成長を目指す上で重要視されるのが「S&OP」です。
しかし、具体的にどのようにS&OPの導入を進めたら良いのか、疑問を抱える企業も少なくありません。

そこで今回は、S&OPの第一人者で、豊富な実務経験を持つ山口雄大(やまぐち・ゆうだい)氏と行本顕(ゆきもと・けん)氏にインタビューを実施。
後編となる本記事では、S&OPを導入する際のファーストステップや、日本企業におけるS&OPの今後の動向について話を伺いました。
S&OPの導入を検討している企業にとって、実践的なヒントが得られる内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。

※S&OPについては、下記をご参照ください。
注目が高まるS&OPとは?SCMとの違いや導入のポイントを解説
※インタビュー前編も併せてお読みください。
S&OPの第一人者に聞く(前編)~日本企業が取り組むべきS&OPとは?~

山口 雄大氏
山口 雄大氏のプロフィール写真

テクノロジーベンダーの需要予測エヴァンジェリスト、青山学院大学プロジェクト 研究員、京都女子大学 非常勤講師

東京工業大学卒。化粧品メーカーのデマンドプランナー、S&OPグループマネージャー、青山学院大学非常勤講師などを経て現職。
複数のAIを組み合わせた新製品需要予測や、生成AIを使った予測精度分析など、データサイエンスでサプライチェーンマネジメント(SCM)を進化させるソリューションを開発している。Journal of Business Forecastingなどで需要予測の論文を発表。著書に『サプライチェーンの計画と分析』(日本実業出版社)や『需要予測の戦略的活用』(日本評論社)など多数。

行本 顕氏
行本 顕氏のプロフィール写真

一般社団法人ASCM COMMUNITY JAPAN 理事長

法学修士。アメリカのSCM標準化推進団体ASCM認定インストラクター。
日本地区で唯一、CPIM-F、CSCP-F、CLTD-Fの資格を持つ。銀行勤務を経て、国内大手消費財メーカーに勤務。2010年、シカゴ駐在時に本場のS&OPと出合いSCMに目覚める。生産管理・海外調達・経営企画・サステナビリティ推進などを担当。公益財団法人日本生産性本部、公益社団法人日本ロジスティクスシステム協会(JILS)にて社会人向けSCM講座を多数担当。著書に『基礎から学べる!世界標準のSCM教本(共著)』『全図解 メーカーの仕事(共著)』他。信条は「世界標準のSCMを全ての人々に」。

S&OPの導入はどうしたら進むのか?

今後、日本企業はどのようにしてS&OPの導入を進めることができるのでしょうか。山口氏は、日本企業がS&OPの導入を検討するきっかけとして、次の2つのパターンを挙げています。

山口氏:「S&OP導入のきっかけの一つは、コロナ禍のような外的要因によるサプライチェーンの混乱です。不測の事態が発生すると、現状を『なんとかしなければ』という発想が生まれます。この混乱を解消するための施策として、S&OPのような新しい概念を導入するケースが増えます。

もう一つは、外国人経営者の介入です。経営層の交代で海外出身の方が加わると、『なぜこれまでS&OPをやってこなかったのか』という話になることが往々にしてあります。私が以前在籍していたメーカーでも、サプライチェーン担当のトップに海外の方が着任し、S&OPに関連する投資、具体的にはシステム刷新や組織改革が加速した印象です」

行本氏も、新型コロナウイルス感染症の流行が、「S&OPのような意思決定のプロセスの重要性を再認識させた」といいます。

行本氏:「サプライチェーンマネジメント(SCM)は、需要を起点として供給活動の優先順位について適切に意思決定することを目指す活動として知られています。
S&OPは、SCMにおいて特に中期的な供給活動の優先順位を意思決定するための仕組みとして位置づけられます。

商品に対する需要は短期的に変化するだけでなく、導入、成長、成熟、そして衰退というサイクルで変化していきます。産業にもよりますが、このサイクルは中期的であることが多く、変化の予兆を捉えつつ、設備投資の促進・抑制や供給の対象とする需要そのものを見直す仕組みとしてのS&OPが、普段から行われている状態が望ましいといえます。

また、製品のライフサイクルの衰退期に直面したときに慌てて、投資抑制の判断を下すような状況はあまり適切なSCMのやり方とはいえません。
近年は新型コロナウイルス感染症の影響で、需要の在り方が急激に変容した産業も多いと聞きます。このような状況下での意思決定もS&OPの出番といえますので、有事に頼りになる平時の仕組みとして、S&OPの導入が必要と感じる企業が増えているのではないでしょうか」

日本企業がS&OPを導入する際のファーストステップは?

日本企業がS&OPを導入する際、最初に何をすべきかについて、行本氏は「提案する立場によって異なる」と指摘します。導入をトップダウンで進める場合と、現場から推進する場合ではアプローチが異なるため、それぞれに合った手順を踏むことが重要です。

行本氏:「経営層がS&OPの導入を主導する場合、ROICのような経営指標に対して、受注達成率や廃棄・売れ残り削減率の向上といったサプライチェーンの現場の指標がどのように寄与するのかを示していくことが重要です。
経営層にとってS&OPは、サプライチェーンを構成する諸要素がよく見えるようになる仕組みですが、これを生かす上では経営判断と現場の活動が乖離しないよう工夫する必要があります。

もっとも、日本国内ではS&OPの基礎であるSCMの教育が普及して日が浅く、米国に多く見られるような『SCM畑出身の役員』の存在が一般的ではありません。このような場合だと、SCMに明るい現場主導でS&OPの導入を目指すことになるでしょう。
しかし、ミドルマネージャー層を含むSCMの現場は、経営資源の分配に関する意思決定を行う立場にありません。いたずらに販売・生産部門間で対立することを避け、SCMの論点を経営課題として整理し、経営層に提示していくことが重要です」

現場の問題状況を一段高い視座から捉えることで、販売・生産部門共通の課題を設定するSCM。経営資源の再分配を選択肢に含むレベルでこれを行うS&OP。
さらに、行本氏が話すファーストステップを踏んだ後に、いざ実践に移る際の初めの一歩として、「診断ツールを使用するのがおすすめ」と山口氏は話します。

山口氏:「学術研究では、需要予測、供給計画、意思決定プロセスやリード組織など、S&OPの成熟度を測るツールが提案されています。いくつかの項目に答えていくと、自社がどのレベルにあるかを把握できます。こうしたツールを使って、まずは自社のS&OPの成熟度を診断すると良いでしょう。

ただし、診断ツールはあくまで学術的に整理された理想をベースとしているため、満点を目指すのを目標にはせず、自社のビジネスモデルやサプライチェーン構造を踏まえた上で、診断結果を他社と比較することで、自社の強みや優先すべき課題を考えることが重要です。
そして、結果を基に、S&OPの意思決定のベースとなる需給情報を整備します。

例えば、過去の需要の平均値だけで先の予測をする、もしくは自社の工場のキャパシティだけに着目するという状態では、良い意思決定はできません。
自社や取引先の施策、配荷計画などの内部情報のほか、季節性や競合の動き、気象などの外的要因も含めた需要の因果関係を整理してシミュレーションし、需要の変動可能性も分析することが必要です。加えて、取引先やサプライチェーンパートナー企業の供給制約も把握した上で、需給のギャップを明らかにすることが良い意思決定につながると思います」

データサイエンスの重要性が増す、日本におけるS&OPのこれから

これから先、日本企業のS&OPを取り巻く環境はどう変化していくのでしょうか。行本氏は次のように予測します。

行本氏:「昨今は、AIの普及、ICTの高度化を背景として情報の可視性が劇的に向上しています。また、これによって、サプライチェーンの内部・外部環境の変化が常態化している状況といえます。そのため、SCMにおいて高度な意思決定が必要とされる場面は、今後も増えていくと考えられます。
標準的なSCMではS&OPがその役割を担いますが、今後はよりスピーディーにこの仕組みを使いこなしていく工夫が必要になるでしょう。近年の状況を捉えた場合、S&OPを導入することが、直近の目標となる企業は増えるものと見ています」

山口氏はこれから先、さらにデータサイエンスの重要性が増していくことを強調します。

山口氏:「私はS&OPのこれからについて、データサイエンスの活用、具体的にはサプライチェーンのモデリングが重要だと思っています。
S&OPとは予測をベースとした組織としての意思決定であり、データサイエンスは意思決定を高度にしてこそ意味があります。予測には正解がありますが、意思決定には正解がありません。そのため、予測と意思決定、それぞれを別のデータサイエンス技術を使って高度化することが有効だと感じています。

例えば、『このセグメントはこういう在庫・供給方針でいこう』という意思決定は、同じ予測がベースになっていても、外部環境や戦略によって変わります。そのため、データサイエンスを駆使して、現実のサプライチェーンや関連する意思決定プロセスをモデル化し、シナリオ分析やシミュレーションを取り入れることによって、S&OPの意思決定の質とスピードを高めることが有効になると考えています。
こうしたデータサイエンスによってS&OPの意思決定の高度化を目指す概念を、S&OPでより成果を出していこうという思いを込めて、『Advanced S&OP』と名付けています」

標準的なSCMを理解した上で、S&OPを導入することが大切

S&OPを導入するにあたり、需要側と供給側の課題やリスクに対する認識のギャップをなくし、双方が納得した上で進めていく必要があります。
実際にS&OPを導入する際には、まずは診断からスタートするといいでしょう。診断は「SCM DX診断」など、ITベンダーやASCMなどが出しているツールを使うことで実施できます。

これに対して山口氏は、「自社内のみで変革マイルストーンを描くのではなく、グローバル標準のツールや他社の取り組み、パフォーマンスを参考に、自社の強みや優先的に解決すべき課題を把握することが大切」と話します。
そして、S&OP導入を考える際、まずは「標準的なSCMを理解することが前提になる」と行本氏は強調します。

行本氏:「SCM自体が導入されていないと、S&OPにはたどり着きません。そのため、まずは標準的なSCMを理解した上で、S&OPを導入するという流れが望ましいでしょう」

■ S&OPについてのお問い合わせ
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※インタビュー前編も併せてお読みください。
S&OPの第一人者に聞く(前編)~日本企業が取り組むべきS&OPとは?~

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