経営管理DXの重要性および実現方法(後編)管理の高度化と事業部門の業務効率化の両立

本稿では、経営管理DXの重要性および実現に向けた方法を2回シリーズで解説します。
前編「上場企業を取り巻く環境変化と課題」では、東京証券取引所の要請によって生じた上場企業を取り巻く環境の変化や、それに適応するために企業に求められることを解説しました。
自社の現状を正しく分析し、改善のための計画を策定するとともに情報を開示する一連のプロセスをいかに迅速かつ正確に行えるかがカギとなります。
そのために必要なことは、社内のデータ基盤を整備することであり、その先にある経営管理DXを実現する第一歩でもあります。
シリーズ後編では、経営管理DXを推進する具体的な方法を解説します。
経営管理の高度化を目指す企業が取り組みたいこと
前編でも記載したとおり、上場企業が経営管理DXにおいて最終的に目指したい姿とは、社内のデータ基盤を整備し、以下の図で示すように経営層・コーポレート・各事業部門が同じ経営管理データにアクセスできる状態です。

経営層からオペレーション現場まで、同じデータに基づいて議論できる状態は、経営の意思決定の質向上が期待できます。現在のような不確実性の高い経営環境では、タイムリーなデータアクセスが競争優位につながります。
共通の経営管理データを基盤とすることで、データの出所や定義について確認するプロセスも省略でき、「同じ目線」で本質的な議論に集中できる点もメリットです。このような流れによって、自社が次にとるべき行動も、おのずと見えてくるはずです。
経営管理の高度化に必要な2つのPDCAサイクルの回し方

社内のデータ基盤を整えるためには、事業ポートフォリオ管理と予実管理の2つのPDCAサイクルを回す必要があります。この両輪が揃っていることが重要であり、いずれかが回らないともう一方もうまく回らなくなるという性質があります。
事業ポートフォリオ管理のPDCA
事業ポートフォリオ管理のPDCAサイクルは、以下の手順で回していきます。
1. 各事業が、成長事業・基盤事業・要支援事業のどれに該当するか判断する
2. 各事業の投資方針を定める
3. 投資方針に基づいて目標値を検討する
4. 数値達成のため、事業戦略やKPIを定義する
5. 中長期のシミュレーションを踏まえ、次年度の達成目標に落とし込む
これらのサイクルは、本質的に企業の価値向上をしようとする場合に適切に回していかなければならないものであり、東京証券取引所の要請に対応するためにも必要です。
予実管理のPDCA
経営管理の精度を高めるうえでは、事業ポートフォリオとともに、予実管理の精度を高めていくことも重要です。
こちらは以下のステップで、PDCAサイクルを回します。
1. 予算と実績見込みが入った総合事業計画を立てる
2. 予算・実績・見込みの差分と、その差分の要因を分析する
3. KPIマネジメントを行う
4. 製品×顧客軸の収益管理・原価管理を実行する
5. 着地見込みのシミュレーションを修正する
6. 最新の見込みの内容を踏まえ、投資管理をする
データ基盤整備のポイント
データ基盤の整備はうまくできていない企業は多いものです。特にネックになりやすい点と、その対策をアバントの過去のコンサルティング事例から紹介します。
実現に向けて検討すべき論点
アバントがコンサルティングを行った事例を見ると、ネックになりやすいのは、前述のプロセスで登場した以下の3点です。

1. 着地見込みシミュレーションや統合事業計画
2. 投資管理
3. 投下資本と資本コストの管理(ROIC)
すなわちこの3点への適切な対策が、経営管理の高度化を実現する肝となります。
各論点の対策事例
前項の3点について、それぞれの対策事例を紹介します。
1.着地見込みシミュレーションや統合事業計画
着地見込みシミュレーションがうまくできない、統合事業計画の作成が難航するといった場合、1つのプラットフォームに情報を集約することが解決につながります。
計画策定に必要なマスタデータや、各種計画データ、過去の実績データも含めて多くのデータを一元管理でき、かつ自社が求める処理やロジックが比較的簡単に実装できるシステムを選ぶと良いでしょう。
また、財務計画だけでなく、販売、在庫、調達/生産などバリューチェンを構成する計画データを含めて一元管理していくことが重要となります。
2.投資管理(将来キャッシュフロー管理)
予算策定、着地見込み作成とともに将来の資金収支予測を作成します。
PLから簡易的に資金収支を自動計算する仕組みでは不十分で、見積、受注、債権の各種明細データから取引先別・組織別・商品別に細かく営業収支を作成することが求められます。
また、投資収支は固定資産管理システムを経営管理視点で効率的に運用することも大事なポイントになってきます。投資対象の事業が特定可能なように管理し、複数事業の共有資産の投資金額を配賦するロジックも検討すべき事項となります。
後述するROICの投下資本の管理と連動していくことが重要です。
3.投下資本と資本コストの管理(ROIC)
全社のROICだけでなく、事業・ブランド・商品別にROICを作成することや、3か年のROICシミュレーションを行い、開示している将来のROICの計画値や事業ポートフォリオ管理に現実味を持たせていくことがポイントになります。
シミュレーションに必要となるデータは、総売上高の当期着地見込みと3か年計画、費用(変動費・固定費)、運転資本、投下資本の当期着地見込みです。合わせて事業・ブランド・商品別に直課できるデータと直課できないデータを配賦する仕組み作りが求められます。
PLベースだけでなく、BSや投下資本まで含めた予算策定、着地見込みの制度設計や実現可能なシステム設計を検討していくことが重要です。
まとめ
経営管理の高度化のためには、事業ポートフォリオ管理と予実管理の2つのPDCAサイクルを回すことが不可欠です。この2つは両輪で機能するため、まずはデータ基盤の整備から着手することが重要です。
データ基盤の整備において特に重要な論点は、着地見込みシミュレーションや統合事業計画、投資管理などが挙げられます。これらへの対策を十分に講じることで、経営管理の高度化に近づくはずです。

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